ヤフー再建を任された天才女子の実力
アップルほど余裕はない
1996年に創業者のスティーブ・ジョブズがアップルに復帰したとき、彼はアップルを一からつくり直した。彼は無数の無駄な製品をお蔵入りにし、最終的に大成功をもたらす新たなプロジェクトを始める。あくまで「最終的に」成功したのであって、そこに至るまでには長い道のりがあった。
幸運なことに、当時は誰もアップルには期待をしていなかったので急ぐ必要はなかったし、忠誠心に厚いマニアの支持もあったので、アップルはジョブズの新プロジェクトが成功を収めるまでの泣かず飛ばずの時代を生き延びられたのだ。
メイヤーとヤフーにそれほど余裕はない。確かに「ヤフー!学習」や「ヤフー!ノートパッド」「ヤフー!ウォレット」のように、なくしたほうがいい製品はいくらでもある。
だが激烈な競争の中で広告を取るには、一方でキラーコンテンツも必要だ。それもすぐに。もしメイヤーが製品廃止の一方で新製品開発を怠れば、広告収入は激減して株価も下落するだろう。最大の財産である社員を引き留めておくことも難しくなる。
キラーコンテンツの開発は容易なことではないし、メイヤーもそうした経験は積んでいない。メイヤーの最も重要な経歴は、グーグルのユーザー体験をつくる責任者だったことだ。グーグルのウェブデザインのほとんどは彼女が決めてきた。
彼女はデータ重視のグーグルのカルチャーと、フィンランドのライフスタイルブランド、マリメッコの鮮やかなプリント柄や、デイル・チフーリの生命力にあふれたガラス彫刻など自分のセンスを融合させようとした。
彼女の部下たちがどの青を使うか決められずにいたとき、メイヤーは41種類の青色に対するユーザーの好みを調査することに決めた。社内の伝統的なデザイナーたちはそれを好まなかったが、このエピソードは、お気楽なIT企業のイメージとは違うメイヤーの注意深さを示している。
ヤフーでは、次の大きな波を見つけるためにメイヤーが頼れるデータはない。だがそこで再び彼女の強みが生きる。ほかのIT企業幹部の誰より、彼女は買い物好きだ。ソフトウエア技術者やメディア企業幹部ではない普通の人々が、ウェブに何を望んでいるか熟知している。グーグル社員に彼女の強みを聞くと、常に「マリッサはユーザーの声そのものだ」と答える。これは長い間、ヤフーに欠けていた視点だ。長いこと広告主や提携先、社内幹部を喜ばすための経営に腐心してきたヤフーは、いつの間にかユーザーのことを忘れてしまった。
メイヤーがヤフーを再生できるかどうかについてはかなり疑問があるが、彼女が何を始めるのかを見るのは楽しみだ。うまくいかなかったとしても、気がめいるような失敗ではなく面白い失敗になるはずだ。
© 2012, Slate
[2012年8月 1日号掲載]