最新記事

ユーロ危機

アイスランドは失業克服の優等生

経済崩壊後、失業率を6%まで改善したアイスランドは危機対応のモデルケース

2012年7月12日(木)17時28分
マシュー・イグレシアス

広く薄く アイスランドは国民と金融システム全体で痛みを負担した Ingolfur Juliusson-Reuters

 08年の世界金融危機で折からの金融バブルが崩壊し、経済崩壊寸前の苦しみと屈辱を味わったアイスランドが、予想外の回復を遂げている。

 経済規模が1割も縮小するほどの深刻な景気悪化を経てきたにも関わらず、失業率は6%程度にとどまり、さらに改善する兆しを見せている。アイルランド失業率が約15%、スペインが25%近いのとは対照的だ。

 もちろん人口32万人のアイスランドを、より大きく複雑な欧州諸国と単純比較するわけにはいかない。だが7日付けのニューヨーク・タイムズ紙は、泥沼にはまったままのギリシャやスペインなどとは正反対の危機対策をアイスランドが打ってきたことに着目している。

 経済危機下の多くの問題のなかでも、高い失業率はとりわけ厄介だ。経済事情の変化のせいで突然借金返済が苦しくなったら、人々は今まで以上に働いて稼がなければならない。働く時間を増やすとか、副業を始めるとか、収入を増やすためなら何でもするはずだ。

 だが、同時に支出を減らすことも考える。ここで問題なのは、多くの人がいっぺんに支出を減らそうとすれば、企業の業績が悪化し、追加的な収入を得るために必要な仕事そのものが減ってしまいかねないということだ。

 アイルランドやスペインがまさにそうだ。人々は危機以前よりも収入を必要としているのに、仕事がない。これではめちゃくちゃだ。

バブル崩壊の損失を埋める魔法などない

 ユーロ離脱などで自国通貨の価値を切り下げても、経済危機の痛みを取り去ることはできない。誰もが貧乏になるだけだ。だが、痛みを国民と金融システム全体で広く薄く負担することで、高失業による危機悪化のスパイラルに歯止めをかけることはできる。

 アイスランドはそのために、同国で最大級の銀行も救済せずに破綻させ、預金支払いを保証し、借金で首が回らない家計や企業には債務免除を行った。とくに営業的には黒字の企業が借金返済に行き詰ってつぶれる黒字倒産を看過すれば、貴重な雇用主を殺すことにもなる。

 世界金融危機が起こったとき、アイスランドもアイルランドも海外資金によるバブルに沸いていた。バブル崩壊による巨大な穴を消し去る魔法などどこにも存在しない。

 アイスランドとアイルランドは共に高い教育水準を誇り、民主的で安定した政府を持ち、政治の腐敗も少ない。長期的には、どちらの経済も立ち直るだろう。

 だが今重要なのは、失業者の目線で政策を行うことだ。国を癒すことができるのは、高失業の長期化を回避できる政府。アイスランドはその点で既に実績を上げているといえそうだ。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中