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ユーロ危機

危険水域? 経済版「スペイン風邪」

自力で債務危機を回避する努力もむなしくデフォルトの確率は高まるばかり

2012年5月31日(木)14時46分
ポール・エイムズ

伝染するか スペイン経済の行方を悲観して4月半ばにマドリード株式市場も動揺 Andrea Comas-Reuters

 欧州債務危機がいわば経済版「スペイン風邪」としてさらに拡大する危険性を帯びてきた。1918〜19年に世界中で大流行したあのインフルエンザが制御不能と判明したのは、欧州域内でスペインにまで広がった時点だった。

 EUの救済対象となったギリシャ、ポルトガル、アイルランドの経済回復が待たれるなか、スペインは緊縮財政というショック療法で自力回復を目指してきた。だがこのまま不調が続けば、債務危機はイタリアやフランス、その他の国々へと、どんどん伝染するかもしれない。

「EUはがっちりとスペインを守り、伝染を食い止めることができるか。それが最大の課題だ」と、オランダの金融・保険グループINGのエコノミスト、カルステン・ブジェスキは言う。

 昨年、ユーロ圏の債務危機という嵐の中心にいたスペインは、12月に就任したラホイ首相が経済再建を約束した。加えて欧州中央銀行(ECB)が金融機関と各国政府のために1兆ユーロ規模の資金供給を決めたことにより、市場から「執行猶予」を得ることができた。

 しかしラホイは今年3月、270億ユーロの歳出削減や増税策のかいもなく、EUの設定した財政赤字目標であるGDP比4・4%を達成できそうにないと表明。「スペインは再び信頼を失った」とエコノミストのルイス・ガリカノは指摘する。「債権者はスペインが改革派の新政権の下で回復するものと見込んだが、赤字問題でまた信用できなくなった」

 スペイン政府は先週、国債の入札で目標の資金を調達できた。ただし入札前には長期金利の指標となる10年債の利回りが6%を突破し、EUとIMF(国際通貨基金)に救済を求めざるを得なくなるのではないかと懸念されていた。さらに調査会社CMAによると、スペインのデフォルト(債務不履行)確率は37%にまで上昇していた。

要は失業対策と住宅市場

 とはいえ、ユーロ圏を見回すとスペインの現状はそれほど悪くはない。公的債務のGDP比68・5%という数字は優等生のドイツをも下回る。ギリシャは150%、イタリアは119%という高さだ。

 スペインが抱える深刻な問題はほかにある。00年代の住宅ブームが破綻し、一般世帯と金融機関が苦境に陥った。所得に対する家計債務残高は07年までの10年間には平均80%だったが、今や126%に達している。

 失業率はユーロ圏で最悪で、就労可能人口の4分の1近く、25歳以下ではその倍になる。ラホイ政権の緊縮策に地方政府が抵抗しているという問題もある。

「憂慮すべきだ」とブジェスキは言う。「崖から転げ落ちるとか即時救済が必要だというわけではない。だが経済基盤が弱く、不動産価格が下げ止まらず、巨額の財政赤字があることを思えば、いつか欧州機関の支援を必要とする可能性が非常に高い」

 スペイン経済を救済するなら3年で約3000億ユーロが必要だろう。夏までに構築される欧州救済基金の8000億ユーロで賄えるとしても、それではイタリア経済が破綻した場合への備えが不足する。

 より安価に、そして経済運営をEUとIMFに託す屈辱を回避するためには、救済基金から融資を受けて国内金融機関の資本再構成をする道がある。

 しかし、いずれの道もスペインの根本的な問題への解決策にはならない。いかにして経済成長を回復させ、失業者を減らし、住宅価格を上げるか──こうした病巣への処方箋がない限り、「スペイン経済風邪」が大流行する危険は去らない。


From GlobalPost.com

[2012年5月 2日号掲載]

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