最新記事
債務危機「緊縮にノー」を突きつけたギリシャの愚
緊縮財政策を進めてきた2大政党が惨敗したが、ユーロを離脱すればさらに過酷な耐乏生活が待ち受ける
混迷 「反緊縮」派の勝利でギリシャ政局は混迷の一途 John Kolesidis-Reuters
5月6日に行われたギリシャ総選挙で、大連立を組んで緊縮財政策を進めてきた2大政党が惨敗した。ギリシャ国民はEU(欧州連合)に押しつけられた「耐乏生活」に、明確なノーを突きつけたわけだ。
フランスでも同じ日、緊縮財政による欧州危機回避を推進してきたニコラ・サルコジが大統領選の決選投票で敗北した。ヨーロッパ各地に広がる緊縮財政への「反乱」に喝采を贈ろう......と言いたいところだが、ことギリシャに関しては、この選挙結果はあまりに愚かな選択だと言わざるをえない。
ギリシャでは「債務返済を拒否しよう」と訴えた極左政党や、移民の排斥を掲げる極右政党が躍進し、連立協議は難航。無政府状態に陥って再選挙が行われるというシナリオも現実味を帯びており、政治システムは崩壊同然だ。
スペインやイタリアとは立場が違う
過酷な財政削減策によってギリシャ国民が痛みを受けてきたのは事実だ。だが、ギリシャがユーロ圏から離脱した場合に訪れる苦しみに比べれば、現状はずっとましだ。
ギリシャの置かれた立場は、スペインやイタリアとは違う。スペインとイタリアはユーロ加盟によって一時的な便宜を受けた過去はあるが、現在は他のユーロ加盟国から財政再建を強いられているだけで、格別な支援は受けていない。
一方、ギリシャはユーロ参加の際に虚偽の申請をし、他国をだまして金を巻き上げ続けてきた。そして今も、ギリシャ危機が欧州全域に「感染」するのを防ぐという名目で、欧州から巨額の金融支援を受けている。
もしギリシャが自らユーロを離脱していたら──あるいは、スペインかイタリアによってユーロを追い出されるというシナリオのほうが現実味は高いが──今よりもずっと厳しい耐乏生活を強いられるはずだ。ギリシャ人の生活水準がセルビアやブルガリア程度まで落ちる状況を想像すればいい。
確かにユーロ体制には問題があるし、ECB(欧州中央銀行)の判断にも誤りはあった。だが、ギリシャ危機の根源は、この国が申告したほどの資金をもっておらず、しかもそれを穴埋めするだけの政治的、社会的に有効な手段がない点にある。
恐ろしいのは、ギリシャの大連立政権が国民受けの悪い政策を進めるなか、有権者に残された選択肢が極右や極左しかなかったことだ。
ギリシャの進むべき道について私は「答え」を持ち合わせていないが、他のヨーロッパ諸国にこれだけは伝えたい。まだ複数の選択肢が遺されているのだから、どうかギリシャのような袋小路に迷い込むことだけは避けてほしい。