IMFの性スキャンダルで欧州に大激震
欧州経済の立ち直りを支えてきたストロスカーン専務理事の性的暴行疑惑によってユーロ圏の債務危機が再び悪化する恐れも
甚大な影響 ニューヨークの裁判所に初出廷したストロスカーンは容疑を否認したが(5月16日) Shannon Stapleton-Reuters
IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事が性的暴行容疑で逮捕・訴追されたのは、これ以上ないほど最悪のタイミングだった(一泊3000ドルのホテルのスイートルームで女性従業員に性的暴行を加えるのに、もっといいタイミングがあった、という意味ではない)。
オンライン新聞「グローバルポスト」によれば、ストロスカーンには次のような行為を働いた容疑がかけられている。
警察によれば、ホテル従業員は32歳のアフリカ出身の移民女性で、10代の娘とともにブロンクス地区に住んでいる。彼女の証言によれば、5月14日に勤務するホテルの一室に立ち入ったところ、裸の男性がバスルームからベッドに走るのが見えたという。彼女は謝罪して立ち去ろうとしたが、男性は彼女につかみかかり、ドアを閉めて鍵をかけ、バスルームに引きづりこんでオーラルセックスを要求し、彼女の下着を脱がせようとしたという。
南部の債務国と北部の健全国をつなぐ仲介役
ストロスカーンは容疑を否認し、無罪を主張している。だが本当に問題なのは、暴行疑惑の真相や裁判における非難合戦の中身ではない。
今後のグローバル経済の見通しという点で、今回のスキャンダルが露呈したタイミングは、まさに最悪。ギリシャもポルトガルもスペインも、今まさにIMFの支援を必要としている。これまでにもイタリアやアイルランド、ベルギー、そしてヨーロッパのほぼすべての国々が、債務危機の最中にさまざまな形でIMFのサポートを受けてきた。
少なくとも短期的には、これほど重要な国際機関のトップにセックススキャンダルが降りかかったことで得をするに人は誰もいない。
突き詰めて言えば、政治とは人々が望んでいないことをやらせる手腕を指す。その意味で、ストロスカーンの仕事ぶりは見事だった。
ストロスカーンの実務的なリーダーシップの元、IMFは財政赤字に苦しむヨーロッパ南部の国々と、他国の救済に消極的な有権者が多いドイツやオランダのような北部の財政健全国の間を取りもつ仲介役を担ってきた。
ストロスカーン自身も、欧州中央銀行(ECB)のジャンクロード・トリシェ総裁やフランスのサルコジ大統領といった政財界の指導者や経済学の権威らと緊密に連携して仲介役の任務を果たしてきた。ギリシャのパパンドレウ首相は、IMFとEUに支援を要請する数カ月前からストロスカーンにアドバイスを求めていた。
IMFの元主任エコノミスト、サイモン・ジョンソンはニューヨーク・タイムズ紙に対して、過去2年間にストロスカーンが果たした役割をこう表現した。「ヨーロッパの人々は経済問題に目覚めるのが遅かった。だがストロスカーンは、人々を脅す代わりに、うまく褒めながら行動を起こさせた。そうすることで、彼は一連の危機をIMFへの評価を回復させるチャンスととらえ、IMFをかつてないほど中心的な存在に押し上げた」