南北格差拡大でヨーロッパ分裂の危機
欧州に広がる新たなナショナリズムの主な攻撃対象は通貨ユーロだが、それ以上にポピュリストらの不満を掻き立てるのが移民問題だ。最近の民主化運動で情勢不安に陥った北アフリカ諸国からの移民の流入は、EUが誇るべき国境自由化の流れにも暗雲をもたらしている。
27のEU加盟国の大半で国境での出入国管理が不要になったことは、ユーロ導入と並んで過去25年間で最大の具体的成果といえるだろう。
1985年にルクセンブルクの小さな村で合意されたシェンゲン協定によって、EU市民は域内の大半の国の国境をパスポートなしで通過できるようになった(イギリスとアイルランドは不参加)。だが、北アフリカからの難民をめぐってイタリアとフランスが繰り広げる醜い争いによって、その歴史も変わろうとしている。
EU域内に「国境」が復活する?
イタリアのロベルト・マローニ内相は先月、チュニジア革命勃発以来イタリアに押し寄せている2万5000人のチュニジア人難民の受け入れを他のEU諸国が拒んでいるとして、EUからの脱退を示唆。さらに、難民にイタリアの住民票を発行し、シェンゲン協定に則って彼らがEU域内を自由に移動できるようにした。難民の多くが向かった先は隣国フランス。フランス当局が怒り心頭なのは言うまでもない。
フランスとイタリアからの圧力を受けて、EU本部は急遽、加盟国が国境での出入国管理を再開しやすい形にシェンゲン協定を改定した。欧州委員会は出入国審査の再開は緊急時に限った措置だと念押ししたが、ユーロと並ぶEUの土台が脅かされていると懸念する声は強い。
「域内の自由な移動は多くの人々の生活を根底から覆す革命だ。今ではパスポートやビザをもたずに自由に行き来ができる」と、仏リベラシオン紙は先日、社説に書いた。「主権国家の古くさい象徴を取り戻すことを夢見るナショナリストや日和見主義の政治家が気に入らないのは、まさにこの歴史的、民主的な成果なのだ」