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米「輸出主導の景気回復」のウソ

2011年4月5日(火)18時21分
クライド・V・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長)

輸出増だけでは失業率は下がらない

 そのカラクリを数字で検証してみよう。

 2010年、アメリカの輸出は前年比で17%(2650億ドル)増加した。そのうち製品の輸出は約2110億ドル、サービスの輸出は約430億ドルだ。増加分は全体でアメリカのGDPの1・34%に相当し、おかげででGDPがその分増加したと解釈された。それ自体は非常にいい話で、米経済が国際貿易の恩恵を被ったという印象を受ける。

 だが、物事には裏がある。同じ2010年、アメリカの輸入は前年比20%(3850億ドル)近く増加した。そのうち、製品の輸入は3600億ドル、サービスの輸入は250億ドルだ。つまり、輸入が輸出より1200億ドル多く、その分、アメリカの巨額な対外赤字と、貿易相手国が保有するドルと米国債が増えたわけだ。

 輸出から輸入を差し引いた純輸出がマイナスであるという事実は、国際貿易がアメリカ経済の足を引っ張っている可能性と、輸出増加を強調する議論の過ちを示唆しているように聞こえるかもしれない。ただし、実態はもう少し複雑だ。正確な答えを知るためには、何が輸入され、何が輸出されていて、輸入がどの程度、潜在的な国内生産を損なっているか検証する必要がある。

 それでも、輸入や貿易のバランスを無視して輸出の話題ばかりを取り上げる姿勢が誤解を招き、危険をはらんでいることは明らかだ。貿易面から失業率を下げる唯一の方法は、貿易赤字を削減すること──つまり、輸入の増加以上に輸出を増やすことだ。

 貿易をめぐる難題から逃げ回るのはもう終わりにすべきだ。

Reprinted with permission from The Clyde Prestowitz blog, 05/04/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

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