iPhoneが「アメリカ製」だったら
iPhoneの作られ方を検証したら、人件費の安い中国に負けたのではない意外なカラクリが浮き彫りに
なぜ負ける? iPhoneの部品の大半は人件費が高く技術集約型の日本や韓国で作られているのに Brendan McDermid-Reuters
ジョン・マケイン上院議員は先日、ABCテレビのインタビューに応じ、iPhoneとiPadは「メイド・イン・アメリカ」の素晴らしさを象徴する製品だと語った。事実誤認もいいところだ。ハイテク機器産業の一大拠点であるアリゾナ州選出のマケインが、こんな勘違いをするなんて容認できない。上院議員たちの知識レベルに国民が不安を感じるのも無理はない。
では、アップルが誇るiPhoneやiPadは、実際にはどの国で作られているのだろう? 大半の人が中国と答えるだろうが、実はそれも間違いだ。ここには、興味深い真実が隠れている。
アメリカの製造業の崩壊を憂う立場の人々は以前から、国内の製造業と雇用が中国に流出している典型例として、iPhoneを名指しで批判してきた。彼らに言わせれば、iPhoneの海外生産委託によってアメリカの貿易赤字は年間20億ドル上積みされ、20〜40万人の国内雇用が失われているという。
巨額の対中貿易赤字は数字のトリック
一方、自由貿易の信奉者たちはまったく逆のことを言う。iPhoneの小売価格、約500ドルのうち、中国での製造・組み立てにかかるコストは180ドル足らず。それ以外の320ドルはデザイン、ソフトウエア開発、マーケティング、輸送、販売がらみのコストで、すべてアメリカ国内で行われている。つまり、中国の2倍近い価値がアメリカで生み出されている計算になる、という。
さらに、中国の製造コストが低いおかげで、アメリカの消費者はiPhoneを安く購入できる。その結果、消費者はより多くの電話を購入し、より多くの国内雇用が生まれる──。
そうだとしても、アメリカには依然としてアメリカには巨額の対中赤字が残り雇用も犠牲になるが、その赤字は、米企業が強い競争力をもつ航空機などの輸出を倍増させることで解消できると自由貿易主義者は言う。
ところが、アジア開発銀行研究所(ADBI)が最近行った調査からは、まったく別のシナリオが浮かび上がる。iPhoneのサプライチェーン(原材料の調達網)を詳細に調べたところ、中国が関与しているのはほんの一部に過ぎないことがわかったのだ。
中国はアジア各国から集まってきたiPhoneの部品を最終的な製品に組み立て、アメリカに送るだけ。貿易統計上、アメリカの税関は中国から届いたiPhoneの価値すべてを中国からの輸入とみなす。iPhoneの貿易でアメリカが中国に20億ドルの赤字になるように見えるのはそのためだ。
だがADBIによれば、中国での組み立てによる付加価値は完成品の3%、つまり約6ドル相当にすぎない。しかも中国はいくつかの高価な部品をアメリカから輸入しており、iPhone貿易で赤字なのはむしろ中国のほうだという。
つまり、iPhone生産の大部分を担うのは、中国をはじめとする労働コストの低い国ではない。充電器やカメラレンズ、水晶振動子は台湾製で、スクリーンは日本製、映像処理半導体は韓国製。それ以外の半導体の多くも台湾の台湾積体電路製造社で作られている。
中国の組み立てラインには、最終的に9カ国以上の国で生産された部品が集まる。そのため、対中国だけでみれば実際にアメリカが黒字になる可能性はかなり高い。