観光大国を悩ますビザ地獄
PR下手と煩雑なビザ取得手続きがアメリカの「巨大輸出産業」の足かせに
アメリカ離れ? アメリカを訪れる外国人観光客は2000年に比べて240万人減った Brendan McDermid-Reuters
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観光客の悪口を言うのは自由だが、アメリカにとって外国からの観光客は欠かせない存在だ。外国人観光客相手の旅行産業は、単に大きなビジネスというだけでなく、巨大な「輸出産業」でもある。国際観光による収入は、旅行先の国にとって観光サービスの「輸出」と見なせる。
09年、外国人観光客がアメリカに落とした金は1200億ドル。観光業が総輸出高に占める割合は8%で、サービス部門の総輸出高に占める割合は24%に達している。観光業はアメリカが貿易黒字を計上している産業の1つで、09年は210億ドルの輸出超過だった。
しかし、いまアメリカの観光産業は危機の瀬戸際に立たされている。世界の観光客が訪れる旅行先のうち、アメリカが占める割合が下落傾向にあるのだ。全米旅行協会によると、09年のシェアは00年の7割足らずの水準に落ち込んだ。この9年間で、アメリカを訪れる外国人観光客の数が240万人減った計算になる。
アメリカの観光産業が抱える問題の1つは、マーケティングだ。州や都市レベルはともかくとして、外国人観光客の呼び込みに努める全国レベルのPR機関がこれまでなかった。
それでも、10年3月に新しい法律が成立し、ようやく観光振興公社という半官半民の組織が設立されることになった。
「世界の人々はアメリカに対して、保護主義的で、傲慢で、もてなしが悪いという印象を持っている。そのイメージを変えなくてはならない」と、同公社の理事長を務めるダイヤモンド・リゾーツ・インターナショナルのスティーブン・クルーベック会長兼CEOは言う。「アメリカを売り込むためのマーケティングを活性化する必要がある」
ビザ面談まで3カ月待ち
旅行で訪れる土地に何を求めるかは、国民性によってまちまちだ。観光振興公社は、売り込み先に合わせたマーケティングを行わなければならない。例えば中国市場に対してはアメリカの文化をアピールし、ブラジル市場に対してはエンターテインメントとナイトライフを強調する必要があるかもしれない。
マーケティングは確かに骨の折れる仕事だが、観光振興公社にとって最大の課題はほかにある。せっかく外国人観光客がアメリカを訪れる気になっても、あまりに不便なビザ発給システムが大きな障害になるのだ。
現在、アメリカがビザを免除している国は36カ国。それ以外の国の国民は、アメリカに入国するためにビザの取得が義務付けられている。しかも9.11テロ以降、ビザ取得には多大な時間と労力とコストが掛かるようになった。観光旅行をしたいだけなのに、個人面談まで受けなくてはならない。