最新記事

ジョブズ

アップルは磐石でも決定的に変わること

ジョブズ無期限療養で株価急落。アップル・ウォッチャーはそれでも楽観的だが、いずれ失われたものの大きさがわかる

2011年1月19日(水)16時07分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

アイコンの涙 普通に優秀な会社としてやっていくには困らない。だけど……。 Mike Segar-Reuters

 アップルのスティーブ・ジョブズCEOが再び療養休暇に入った。今回は、前回の療養と違い無期限だという。これにより時価総額3000億ドルの同社を支える株主たちは「ジョブズ後」のアップルの行く末を懸念。株価は一時10%近く値を下げた。

 ところが、社の戦略や人材など内部事情に詳しいアップルウォッチャーたちは、市場よりはるかに楽観的だ。最大の理由は、これまでジョブズが経営陣に才能豊かな人物を登用してきたからだ。その筆頭は、COO(最高執行責任者)のティム・クック。IBMとコンパックを経てアップル入りしたベテランで、ジョブズがいない間、経営を任されることになる。

「戦略的ビジョンを掲げ、それを実行していくことにかけて、彼の右にでる者はいない。大規模な事業を細部にまで徹底して行う術を知っている」と、アップルの元幹部ジャンルイ・ガッセは言う。「前回スティーブが休職したとき(09年に肝臓移植手術を受けたとき)も、ティムが経営にあたり、何の問題もなかった」

ジョブズのように考えられる経営幹部

 米調査会社クリエーティブ・ストラテジーズのティム・バジャリン社長は先週、米携帯電話最大手ベライゾンによるiPhone発売が発表されたときにクックと話したという。「多くの人たちが考えているより、彼(クック)が大きな権限を持っていると感じた」と彼は言う。「彼はジョブズと同様に社のすべてを把握している」

 バジャリンによればアップルには特有の企業文化があり、社外の人物が同社のCEOとしてジョブズの穴を埋めるのは、ほぼ不可能だという。「彼らは独自の主義主張で動いている。アップルには、スティーブ・ジョブズの考えを形にすることのできる人物が必要だ」と彼は言う。「その役割を果たせる人物は同社には1人しかいない。ティムだ」

 クックの重要な補佐役となるのは、マーケティング担当のフィル・シラーと、デザイン部門責任者で世界最高の工業デザイナーの1人とされるジョナサン・アイブだ。さらにもう1人、忘れてならないのは、小売大手ターゲットを辞めてアップルの販売担当責任者になったロン・ジョンソン。「スティーブはあらゆる分野で、アップルの考え方に順応できるベストな人材を集めた」とバジャリンは言う。「だから彼らにすべてを任せた」

 ジョブズには素晴らしい才能がいくつかある。1つは先見の明。数年後を見通した製品をデザインする力だ。さらに容赦ない完璧主義(周囲の多くをいらいらさせた)も、ジョブズの成功に欠かせない。彼は人の感情を傷つけるのを恐れない。シンプルで自分が使いたくなる製品を要求する。

 だがおそらく彼の最も重要な資質はそのカリスマ性だろう。これがあるからこそ、数万人のアップルの社員は、何度「ノー」と跳ね返されても、彼の後をついてきたのだ。

 ジョブスは技術者やデザイナーに、これでは満足できないからやり直せと言い渡す。彼らが何カ月も費やしてきたことも、その新製品に誇りを持っていることも知っている。それでも「悪いが、却下だ」。より少ない機能でより高いパフォーマンスが欲しいのであって、より多くの機能でより低いパフォーマンスではだめだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、86億ドルの補正予算案を提出 米関税リスクに

ワールド

マレーシア第1四半期GDP速報値、前年比+4.4%

ワールド

米連邦高裁、トランプ政権に司法との対立回避を呼びか

ビジネス

独企業、3割が今年の人員削減を予定=経済研究所調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中