アップルは磐石でも決定的に変わること
ジョブズ無期限療養で株価急落。アップル・ウォッチャーはそれでも楽観的だが、いずれ失われたものの大きさがわかる
アイコンの涙 普通に優秀な会社としてやっていくには困らない。だけど……。 Mike Segar-Reuters
アップルのスティーブ・ジョブズCEOが再び療養休暇に入った。今回は、前回の療養と違い無期限だという。これにより時価総額3000億ドルの同社を支える株主たちは「ジョブズ後」のアップルの行く末を懸念。株価は一時10%近く値を下げた。
ところが、社の戦略や人材など内部事情に詳しいアップルウォッチャーたちは、市場よりはるかに楽観的だ。最大の理由は、これまでジョブズが経営陣に才能豊かな人物を登用してきたからだ。その筆頭は、COO(最高執行責任者)のティム・クック。IBMとコンパックを経てアップル入りしたベテランで、ジョブズがいない間、経営を任されることになる。
「戦略的ビジョンを掲げ、それを実行していくことにかけて、彼の右にでる者はいない。大規模な事業を細部にまで徹底して行う術を知っている」と、アップルの元幹部ジャンルイ・ガッセは言う。「前回スティーブが休職したとき(09年に肝臓移植手術を受けたとき)も、ティムが経営にあたり、何の問題もなかった」
ジョブズのように考えられる経営幹部
米調査会社クリエーティブ・ストラテジーズのティム・バジャリン社長は先週、米携帯電話最大手ベライゾンによるiPhone発売が発表されたときにクックと話したという。「多くの人たちが考えているより、彼(クック)が大きな権限を持っていると感じた」と彼は言う。「彼はジョブズと同様に社のすべてを把握している」
バジャリンによればアップルには特有の企業文化があり、社外の人物が同社のCEOとしてジョブズの穴を埋めるのは、ほぼ不可能だという。「彼らは独自の主義主張で動いている。アップルには、スティーブ・ジョブズの考えを形にすることのできる人物が必要だ」と彼は言う。「その役割を果たせる人物は同社には1人しかいない。ティムだ」
クックの重要な補佐役となるのは、マーケティング担当のフィル・シラーと、デザイン部門責任者で世界最高の工業デザイナーの1人とされるジョナサン・アイブだ。さらにもう1人、忘れてならないのは、小売大手ターゲットを辞めてアップルの販売担当責任者になったロン・ジョンソン。「スティーブはあらゆる分野で、アップルの考え方に順応できるベストな人材を集めた」とバジャリンは言う。「だから彼らにすべてを任せた」
ジョブズには素晴らしい才能がいくつかある。1つは先見の明。数年後を見通した製品をデザインする力だ。さらに容赦ない完璧主義(周囲の多くをいらいらさせた)も、ジョブズの成功に欠かせない。彼は人の感情を傷つけるのを恐れない。シンプルで自分が使いたくなる製品を要求する。
だがおそらく彼の最も重要な資質はそのカリスマ性だろう。これがあるからこそ、数万人のアップルの社員は、何度「ノー」と跳ね返されても、彼の後をついてきたのだ。
ジョブスは技術者やデザイナーに、これでは満足できないからやり直せと言い渡す。彼らが何カ月も費やしてきたことも、その新製品に誇りを持っていることも知っている。それでも「悪いが、却下だ」。より少ない機能でより高いパフォーマンスが欲しいのであって、より多くの機能でより低いパフォーマンスではだめだ。