起業家が起業家を救うエンジェル投資
大手ベンチャーキャピタルに認められなくても、先輩起業家が資金と助言をくれるタイプの投資が増殖中
ニューヨークのシリコンアレーにある立派なオフィスで、クリス・ディクソンは18歳の青年に金を受け取らせようとしている。カリフォルニア州からやって来た青年で、噂ではシリコンバレーで最も注目される起業家の一人になりそうだ。青年の名はダン・グロス。音楽、銀行の取引明細やツイッターのフィードなど、個人が「クラウド」に保存したすべてのデータを簡単に検索できる方法を開発した。
この検索エンジン「グレプリン」を事業として軌道に乗せるには資金が必要だ。投資会社ファウンダー・コレクティブの共同経営者である38歳のディクソンは、小切手を用意している。
かっちりした黒縁眼鏡、ジーンズにスタッズベルト、そしてもちろんスニーカー。ディクソンは生き残りの難しい新興インターネット業界では珍しい成功者だ。ネットセキュリティー企業のサイトアドバイザーを05年に7500万ドルでマカフィーに売却した後、有望な後進に贈り物をする「エンジェル投資家」の一人になった。
クライナー・パーキンズ・コーフィールド&バイヤーズやセコイア・キャピタルといった大手ベンチャーキャピタルと違い、エンジェル投資家はもっぱら大成功した個人起業家で、手持ち資金を次世代の才能に賭けたがっている。大不況でベンチャーキャピタルからの資金は期待できないため、彼らがその穴を埋めようとしているのだ。新興企業に注目するウェブサイト「アーリーステージャー」によれば、こうしたファンドは09年の7社から今年は26社と急増した。
もちろん「エンジェル」は少しばかり言い過ぎだ。彼らもベンチャーキャピタルと同じくらい日和見的で、第2のグーグルに最初から関わりたがる。
ベンチャーキャピタルが新進の起業家に巨額の出資をして大量の株式を手に入れるのとは違って、ファウンダー・コレクティブの出資額は平均20万ドル未満。見返りの株式も少ない。しかし起業家への個人的支援はベンチャーキャピタルを上回る。おかげで若き起業家は、ハイテク業界有数の頭脳と成功した起業家につてができる。
シリコンバレーではみんな知っているはずだ。98年8月、後にグーグルを創設するラリー・ページとセルゲイ・ブリンに10万ドルの小切手を手渡したのは、サン・マイクロシステムズの共同創立者アンディ・ベクトルシャイムだった。ハーバード大学の学生が始めたフェースブックという新興企業に、第三者で最初に投資したのはペイパルの共同創設者ピーター・シールだ。
過去10年間、ハイテク企業の開業コストは大幅に下がっている。新興企業はもうオラクルのデータベースに6万ドル払ったり、コンテンツの管理システムに何万ドルも支払わなくていい。すべて無料のオープンソースソフトウエアにお任せだ。ブロードバンドもハードウエアもかなり安くなった。プログラマーも今は1社に1人か2人で十分だ。