世界が突っ走る緊縮財政の罠
オバマ政権の政治的計算
アメリカの場合は別の要因が働いている。失業率は高く、長期金利は記録的な低水準、インフレは抑制されており、民主党は中間選挙で議席を失う見込みだ。こうした状況で景気刺激策を拡大するのは簡単なように思える。
しかし、93年にクリントン政権を混乱させた内輪もめが再び繰り返されている。当時、ロバート・ルービン大統領補佐官とロバート・ライシュ労働長官が赤字削減か、景気刺激かで対立。結局、赤字削減を訴えるルービン派が勝利した。
17年後の今、オバマ政権には別の思惑がある。短期的な赤字増大のほうが、成長鈍化と失業率上昇より政治的リスクが大きいというものだ。だが、そうした議論は州政府による緊縮策を見落としている。州政府は連邦政府と違い、赤字の垂れ流しは法律上許されない。
米シンクタンク「予算・政策研究所(CBPP)」の試算では、08年または09年に33州が増税した結果、年間の税収は総額317億ドル増える見込みだ。一方で各州政府は5月、2万2000人の人員を削減した。「景気後退の影響と財政均衡の義務から州が実施している対策が、経済を減速させている」と、CBPPのニコラス・ジョンソンは言う。
財政縮小によって経済成長を実現するのは難しい。世界の主要国は、将来の成長促進のため短期的には赤字を増大させ、その穴埋めは後回しにする必要がある。
かつて古代キリスト教最大の神学者アウグスティヌスは神にこう祈った。「われに性的禁欲と自制を与えたまえ。ただし、しばしの猶予を」。政策立案者はケインズ派でも反ケインズ派でもなく、アウグスティヌスを見直すといい。緊縮財政と赤字削減は必要だが、今はまだ早過ぎる。
[2010年6月23日号掲載]