最新記事

アップル

マッキントッシュよ、安らかに眠れ

ジョブズCEOは世界開発者会議でパソコン「マック」の話題にまったく触れなかった。もはやアップルの未来にとって必要ないのだ

2010年6月10日(木)16時12分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

熱かった過去 マックとジョブズが蜜月だった時代もあった(08年のワックワールドエキスポで) Robert Galbraith-Reuters

 親愛なるマック様

 こんな話をするのは辛いが、君自身ももう気づいているのではないだろうか。気の利いた言い方が思いつかないから単刀直入に言おう。君はもうおしまいだ。

 ごめんよ。こんなことを言えば君が傷つくのは分かっている。それでも真実には正面から向き合うべきなんだ。アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)は君との関係に終止符を打った。それも6月7日のアップル世界開発者会議(WWDC)の席で。

 スティーブが何を言ったか知りたい? 彼はタブレット型端末iPadや電子書籍アプリiBooksやゲームソフトについて語った。それから新型のiPhone4のことを。

 新しい携帯電話向けOS(基本ソフト)についても延々と語った。これまでiPhone OSと呼ばれてきたものだが名前を変え、今後は「iOS4」と呼ぶんだそうだ。

 だがただ一つ、スティーブが多くを語らなかったことがある。君のことだ。実を言うと、彼は君についてまったく触れなかった。こんなことは初めてだ。

 WWDCでマックの話題が全く出なかったことなどどうでもいいという人も、いまだにマックをネタにした商売(マック専門誌とかマック専門の展示会とか)をやろうとしている人も、そのどちらでもない人も、みんな聞いてくれ。

 マックはもはや、アップルの未来の中心にはない。マックで商売をしている人々よ、君たちはお払い箱になったんだ。

マックを上回るiPadの売れ行き

 アップルにとっての未来とはiPhoneやiPadであり、それらを機能させるためのOS――つまり魅力的なiOS4だ。最近のスティーブの関心のほとんどもこちらに向いている。

 スティーブ自身、あるソフトウエア開発者の問い合わせに対してメールでこう答えている。


私たちは今年、主に(それだけというわけではないが)iPhone OSに集中している。来年はもしかするとマックに集中するかもしれない。これは通常のサイクルだ。隠された意味なんてない。


 ちょっとしたヒントがここにある。スティーブが「隠された意味なんてない」と言ったのは、つまり「おいおい負け犬君、そんなの分かりきってることだろう?」ということなのだ。

 確かにアップルはマックを切ったりはしないだろう。だが、iPadや未来の携帯端末がマックに取って代わる存在になれるよう、iOS4の機能向上に力を入れていくだろう。

 アップルはこれまでも、あえて既存のiPodの売り上げを犠牲にしてまで安くて高機能な新型を市場に投入するといったことを繰り返してきた。同じことがここでも起きている。iOSを搭載した安価な携帯端末が、マックの市場を蹂躙しようとしているのだ。

 実際、一部のアナリストからはiPadの売れ行きは既にマックを上回っているという見方も出ている。

iOSが持つ2つの利点

 かわいそうなマック。かつての恋人スティーブは君の元を去った。

 君が自分にどう言って聞かせているかは分かっている。スティーブは今、ちょっとおかしくなっているだけ。中年の危機を迎えているんだと。

 これは一時の気の迷いに過ぎず、しばらく新しくてステキな玩具で遊んだら、スティーブはあわてて戻ってくるはずだと君は思っている。UNIXスベースの強力なカーネルと、無駄のない直感的なユーザーインタフェースを備えた、使い勝手のいい昔なじみの自分のところに――。

 だがそうはならない。気の毒だが、古きを捨て去り新しきを取り入れることは昔からスティーブの得意技だ。たとえそれが残酷で無情な行為であり、他人を傷つけることになるとしてもだ。

 マック、君だってそんなことは分かってるだろう? それがスティーブの魅力だと昔は思っていたんじゃないか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クリミアは「ロシアにとどまる」、トランプ氏が米誌に

ビジネス

トランプ氏「習氏から電話」、関税交渉3-4週間で終

ビジネス

米国向けiPhone生産、来年にも中国からインドへ

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    アメリカ版文化大革命? トランプのエリート大学たた…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 5
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中