最新記事

米金融改革

バーニー・フランク、大銀行退治へ

銀行業界に睨みをきかす下院金融委員長を取り巻くロビイストの陰謀とデリバティブ規制をめぐる攻防

2010年4月21日(水)18時49分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

キレやすい正義漢 複雑怪奇な金融の規制改革は30年近い議員生活で最も困難な仕事だったというフランク(写真は09年11月) Jonathan Ernst-Reuters

 バーニー・フランクは激怒した。いかにも彼らしいやり方で。「よくもそんなことを!」と、彼は言った。「私を嘘つき呼ばわりするとは何事だ!」

 11月中旬、私は米連邦議会に下院金融委員会委員長のフランクを訪ね、ウォール街をどう改革するつもりか取材した。彼が怒りだしたのは、質問が銀行業界のロビー活動の影響に及んだときだ。フランクは、自分が金融規制改革に及び腰だなどという批判は断じて許さない。

 私はまた、金融規制改革法案の採決を延期した前日のフランクの決断について尋ねた。まだ心を決めかねている民主党議員がいるというのが公式の説明だったが、ほかの理由はなかったのか。「私が嘘をついていると言いたいのか」と、フランクは言った。「大銀行のために延期をしたとでも?」

 実のところ、私は大銀行のことなどひとことも言っていないし、もちろん嘘つき呼ばわりなどしていない。だがこれは、フランクが批判派と対決するときのいつものやり方。反攻に打って出るのだ。

 ハーバード大学法科大学院を卒業したフランクは、下院でも最も頭が切れる男として知られる。反対意見が出れば、獰猛にもなる。アメリカの金融システムを一変させてしまいかねない法案が懸かっているとなればなおさらだ。

 今、トレードマークのしかめっ面を作ったフランクは、分厚い眼鏡の奥から私をにらみ付けながら反撃を始めた。「大銀行には何の影響力もない。彼らはクレジットカード利用者保護法案も止められなかったし、新設が決まった消費者金融保護庁(CFPA)からも厳しい締め付けを食うだろう」

 だが、私が採決延期について再度質問し、ウォール街のドル箱である店頭デリバティブ(金融派生商品)にどれだけ厳しい規制を課すつもりかを尋ねるに至って、フランクはキレた。「取材はここまでだ」と、彼は言い渡した。小槌を打ち鳴らして閉廷を知らせる判事のように。

 フランクが過剰防衛気味に見えるのも驚くには当たらない。マサチューセッツ州選出の民主党下院議員として15期30年近くにわたり波乱に満ちた経歴を積んできた彼は、いつもはリベラル派の英雄で、保守派の既得権益の仇敵だ。

 貧困層の弁護を引き受けるため米議会が設立したリーガルサービシズ社を解体の危機から守り、同性愛者の移民を禁じる条項を撤廃させ、住宅ローンの借り手保護を強化した住宅ローン破産改革法案を支持した。

いまだ強力なロビー活動

 だが今は、自分のキャリアで最大の挑戦になると自ら認めるウォール街との戦いで、リベラル派の支持者たちからも疑いの目を向けられている。

 金融委員会が12月2日にようやく可決した金融規制改革法案は、金融業界への監視を強化し「大き過ぎてつぶせない」金融機関が再び出現するのを防ぐのが狙いだ。

 その中核は、巨額の店頭デリバティブの取引を公開の場に移し、当局の監視の目が届くようにすること。従来の規制なきデリバティブは08年の金融危機を増幅させた主犯格で、もう少しで金融システム全体を破壊するところだった。

 サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)関連の証券化商品は多くの金融機関を破綻に追い込んだし、複雑なリスクヘッジ商品クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を大々的に売って経営危機に陥った米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の救済には、約1800億ドルもの公的資金が必要だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中