最新記事

ノースウエスト航空

空白の78分間、あきれた言い訳

2009年10月28日(水)15時51分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

 10月21日、カリフォルニア州サンディエゴからミネソタ州ミネアポリスに向かっていたノースウエスト航空188便が、78分間も管制官との交信を絶った上に着陸予定の空港を240キロ通り過ぎるという騒ぎがあった。

 情報筋によると、188便はカンザス州西部の高度約1万1000キロ上空を航行中に突然、管制官との交信をしなくなったという。その後ミネソタ州の東隣にあるウィスコンシン州に入るまで操縦士からの応答はなかった。

 この間、管制官は必死に188便に呼び掛け、テキストメッセージを送り、航空会社の専用回線を通じて交信を試みた。連邦航空局は9・11テロの教訓から米軍に連絡を取り、戦闘機が待機する事態に発展したとの情報もある。

 交信再開後、何が起きたのかという管制官の問いに対し、操縦士から返ってきたのは「気が散っていた」という答え。さらに厳しく問いただしたところ、操縦士は「会社の問題について議論していた。それ以上は言えない」と答えたという。

ハイジャックかと思ったら

 管制側はハイジャックの可能性も考え、通常は行う必要のない方向転換を何度も指示。操縦士が何のためらいもなく従ったため、事件性はないと結論、ミネアポリスの空港への着陸を指示した。

 事件の調査を開始した米運輸安全委員会(NTSB)は「会社の問題」を議論していたという操縦士の説明に納得していない。そんなことのために管制との交信という重要な業務を1時間以上放り出すとは信じ難いからだ。

 NTSBの調査官は当初、この間のコックピット内の会話をボイスレコーダーが録音しているものと期待していた。だが、188便に搭載されていたボイスレコーダーは最長で30分間しか録音できないものだった(ボイスレコーダーと航行データを記録するフライトレコーダーはワシントンのNTSBの研究所に送られ、分析が行われている)。

 専門家の間でささやかれているのは、正副操縦士が共に居眠りをしてしまったのではという説だ。ボイスレコーダーに残された居眠りの証拠を消すために、しばらく飛行を続けたというわけだ。

 ノースウエスト航空の親会社のデルタ航空は、188便の操縦士を「調査が終了するまで飛行業務から外す」と発表している。

[2009年11月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中