最新記事

テクノロジー

PCバッテリー駆動時間はインチキ

絶対にあり得ない数字がノートパソコン広告に載っている理由

2009年8月3日(月)15時32分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 自動車メーカーが協力して新車の燃費を独自の方法で測定し始めたとしよう。アイドリング状態で下り坂を走るのだ。次々に驚愕の数字が飛び出す。重量3トンのSUV(スポーツユーティリティー車)が1リットル当たり130キロ! サブコンパクトカーは210キロ!

 ただし、窓ガラスのステッカーの一番下に小さな文字で免責事項が記されている──燃費は状況によって異なることがあります。

 もちろんインチキだ。だがノートパソコンとバッテリーの駆動時間をめぐり、多かれ少なかれ同じようなことが起きている。

 私の手元にある家電量販店ベスト・バイのちらしでは、デルのノートパソコン(599ドル)のバッテリー駆動時間は「最大5時間40分」。その下に小さな字で、さまざまな状況により「異なります」。つまり5時間40分はあり得ない。絶対にない。

 では、どうしてこの時間なのか。バッテリー持続時間はモバイルマーク2007(MM07)と呼ばれるベンチマークテスト(性能テスト)に基づいて算出される。テストを作ったのは、パソコンメーカーなどが所属する業界団体BAPCo(ビジネスアプリケーション・パフォーマンス法人)だ。

 そのBAPCoで内部告発が起きている。マイクロプロセッサー業界2位のアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)によると、MM07の数字が誤解を招くことをパソコンメーカーは十分に承知しているが、お構いなしに宣伝しているという。

AMDが批判、インテルが反論

 バッテリー駆動時間が長く算出されるのは、テストの際に画面の明るさを最大値の20~30%に抑え、無線機能をオフにし、主要なプロセッサーチップを処理能力の7.5%しか動かさないから。車をアイドリング状態で下り坂を走らせるようなものだ。

 技術者や業界関係者はかなり前から、企業が公称するバッテリー駆動時間はほとんど意味がないと知っている。しかし普通のユーザーは知らない。だから、店員にこちらの機種はバッテリーが1時間長持ちしますと言われ、高いほうを買わされる人もいる。

「業界が自己規制をするか、米連邦取引委員会(FTC)が介入するか、集団訴訟を起こされるか。われわれは最初のシナリオを勧める」と、AMDのマーケティング担当副社長パトリック・ムーアヘッドは言う。

 AMDはパソコンメーカーに、「使用時間」と「待機時間」から駆動時間を算出する新しい方法を提案している。携帯電話の「通話時間」と「待ち受け時間」のようなものだ。

 もっとも、AMDが改革を叫ぶのは利他主義からではない。彼らの本音は、MM07が自分たちのライバルのインテルを不当に優遇しているという不満だ。AMDに言わせれば、MM07はインテルの研究室で開発され、インテルのチップがAMDのチップより高い数値が出るように操作されているという(待機状態ではAMDのほうが電力を多く消費する)。さらにBAPCoの会長はインテルのベンチマークテストの責任者だとも指摘する。

 対するインテルは、たわ言にすぎないと一蹴する。同社の広報担当者は、会長がインテルの重役だからといって同社が特別な影響力を持つわけではないと反論。「パフォーマンスの劣る会社は、標準的で独立した基準に異議を唱えることも多いものです」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米新車販売24年は約1600万台、HVがけん引 E

ビジネス

FRB高官、インフレ抑制と雇用維持のバランス必要と

ビジネス

「北海から風力発電施設撤去しろ!」、トランプ氏が英

ワールド

焦点:ロシアのスパイになったあるウクライナ男性、そ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話
  • 2
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...ミサイル直撃で建物が吹き飛ぶ瞬間映像
  • 3
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤ちゃんが誕生
  • 4
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 5
    「妄想がすごい!」 米セレブ、「テイラー・スウィフ…
  • 6
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海…
  • 7
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 8
    韓国の捜査機関、ユン大統領の拘束執行を中止 警護庁…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 1
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
  • 2
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 3
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」
  • 4
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 5
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 8
    「弾薬庫で火災と爆発」ロシア最大の軍事演習場を複…
  • 9
    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…
  • 10
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中