最新記事

アップルの原点となった40年前の私の記事

ジョブズ、天才の素顔

暗黒のエネルギーも含め
彼を伝説たらしめたもの

2011.12.15

ニューストピックス

アップルの原点となった40年前の私の記事

電話回線に不法侵入する若者たちを追った記事はジョブズとウォズニアックの名コンビ結成の火付け役となり、後にアップルが成功へと向かう道を切り開いた

2011年12月15日(木)12時29分
ロン・ローゼンボム(作家)

 ニューヨーク・タイムズ紙が掲載したスティーブ・ジョブズの追悼記事に、次のような部分がある。ジョブズとスティーブ・ウォズニアックのコンビが生まれた経過と、そこに私がどう関わったかを書いた個所だ。


「名コンビ誕生のきっかけをつくったのはウォズニアックの母親だった。カリフォルニア大学バークレー校の学生だった彼に、母親がエスクァイア誌71年10月号に掲載されたロン・ローゼンボムの記事のコピーを送った。『小さな青い箱の秘密』と題されたその記事は、電話回線に不法侵入する若者たちを取り上げたもの。彼らは『フォーンフリーク』と呼ばれていた」

「ウォズニアックはジョブズに記事を見せた。2人は記事中に登場する『キャプテン・クランチ』と呼ばれる人物と連絡を取ることにした。シリアル食品のおまけに付いてくる笛を使って、長距離電話を無料でかける方法を編み出した元祖フォーンフリークだ」

「キャプテン・クランチの正体は元空軍電子機器技術者のジョン・ドレーパーだった。......彼から聞き出した情報を基に、2人は無料で電話がかけられる装置『ブルーボックス』を開発し、6000ドルを稼いだ」


 ジョブズは80年代にランチを共にしたときに、私の記事が果たした役割を話してくれた。その頃私は広告デザイナーのジェイ・チアトの記事を書いていた。チアトはアップルがマッキントッシュの発売を発表したCM「1984」を手掛けていた。ジョージ・オーウェルの描いた独裁者「ビッグ・ブラザー」のような人物が演説する巨大スクリーンに、女性アスリートがハンマーを投げ付けるというもので、アップルの反逆精神を印象付けた(あるいは生み出した)画期的なCMとなった。

iPodの原型がそこに

 チアトはジョブズと一緒にランチに来てくれた。ジョブズは私の記事に触発された話を始めた。ウォズニアックと彼は、記事の情報を手掛かりにして電信電話会社AT&Tのトーンの周波数を突き止め、技術系雑誌からも情報を集めて独自のブルーボックスを開発したという。ギャンブル集団や犯罪組織など、独自の通信網を欲しがる連中なら買うだろうと思ったそうだ。

 そんな違法なマシンでも、ジョブズがデザイン面に大変なこだわりを持っていたことは見て取れた。小型のブルーボックスはたばこの箱ほどの大きさで、キーボードをメタリック仕様にしていた。後のiPodにつながるデザインだった。

 アップルは急成長を遂げつつあったが、ジョブズは常識を備えた気取りのない人物に思えた。私は自分の記事が彼に影響を与えたことを誇りに思い、チアトについての記事にもジョブズのコメントを入れたのだが、編集者が削除してしまった。当時のジョブズは、まだそれほど注目される人物ではなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中