最新記事

東電バッシングが生む「二次災害」

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

東電バッシングが生む「二次災害」

JAL化の不安から株価は一時5分の1に。だが東電は事故がなければ超優良企業で、首都圏に電力を供給する日本の生命線だ

2011年6月9日(木)09時51分
千葉香代子(本誌記者)

ひたすら謝罪 東電を叩けば問題が解決するわけではない Issei Kato/Reuters

 日本航空(JAL)のように国有化されて、株は紙切れ同然になるという噂で先週、東京電力株は震災前の5分の1にまで暴落した。東電に債権を持ち、大型の緊急融資を行うと報道されたメガバンクの株も釣られて売られた。シティグループ証券がリポートで、「国有化という言葉に過剰反応している」とクギを刺すほど、不穏なムードだった。

 震災以降に飛び交ったデマや感情論は数え切れないが、東電JAL化論もその1つ。東電の場合、会社更生法の適用を受けて株価がゼロ円になり、債権者も負担を求められるJALと同じシナリオは考えにくい。
だが、これに真実味を与えたのは市場を安定化させるべき政府自身だ。原子力損害賠償法(原賠法)では、「異常に巨大な天災地変」による事故の場合は事業者(東電)は免責され、国が必要な措置を取ることになっている。

 ところが、世界史上最大級の地震と未曾有の大津波に襲われた福島第一原子力発電所の事故で、東電にこの免責が適用されるかと尋ねられた枝野幸男官房長官は3月末、「(事故の)経緯と社会的状況から、安易に免責等の措置が取られることはあり得ない」と否定した。

 その直後、原発敷地内の土壌からプルトニウムが検出され、放射能汚染による農家や漁業者、避難住民への補償がどこまで拡大するのか分からなくなったことから、一気に東電株が売り込まれた。 
4月に入り菅直人首相自らが東電への支援姿勢を明言し、市場の動揺はひとまず収まったが、弁護士出身の枝野が「社会的状況」次第で賠償責任の在り方が変わるというのでは、大衆迎合と言われても仕方がない。

 東電は日本の総電力需要の3割を担うインフラ企業だ。それが今や原発という主力の生産設備を失い、発電量は2割も落ち込んだまま。その一刻も早い再生は、日本経済の生命線と言っても過言ではない。

 政治家の軽はずみな発言やメディアの無責任な国有化説で株価を8割も下げている間に、外国企業に買収される不安を口にする専門家もいる。外資規制はあるが、日本法人を通せば買い占めも可能なのだ。
そんな事態になる前に、東電と原発の明確な将来像を示す必要がある。

ほかで代替できない存在

 事故後の東電の対応は批判されてしかるべきだが、現在の「東電憎し」「原発憎し」の感情論の中では、いくつかの重要な前提が忘れ去られている。1つは、今回の原発事故のそもそもの原因は未曾有の天災だったということ。

 もう1つは、東電は送配電網以外に多様な事業も持ち、今回の震災がなければ収入の安定した超優良企業だということ。経営失敗の末に国有化された日本長期信用銀行やJALとは違う。

 それを原発事故があったからといって国有化するのは、東北新幹線が事故を起こしたからといって山手線ごとJR東日本を国有化するようなものだと、ある政府関係者は皮肉る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中