最新記事

ボランティアは押し掛けていい

3.11 日本の試練

日本を襲った未曾有の大災害を
本誌はどう報じたのか

2011.06.09

ニューストピックス

ボランティアは押し掛けていい

震災直後なぜか広まった「迷惑論」。被災者は至る所で悲鳴を上げている

2011年6月9日(木)09時52分
小暮聡子(本誌記者)

 被災地にボランティアをしに飛んで行きたいが、いま行けばきっと迷惑がられる。今回の大震災ではそう考え、被災者の力になりたいという多くの人たちがボランティアを自粛している。

 だがボランティアが駆け付けることは、被災者にとって本当に迷惑なのだろうか。被災地では今、人手が圧倒的に足りていない。自宅から泥をかき出せずに避難所暮らしを続ける人、自宅から出られず物資を受け取れない人、心に負った傷に気付いてさえもらえない人──被災者は至る所で悲鳴を上げている。
ボランティアに行きたい人も、来てほしい人も確実にいる。それなのに人々が自粛するのは、阪神淡路大震災など過去の事例にあまりに縛られているからだ。

 今回の地震直後、メディアは一斉に阪神淡路大震災でボランティアの大洪水が起き、寝る場所や食事を確保せずに駆け付ける人がいたことを蒸し返して「まだ行く時期ではない」「自己完結できない人は現地の迷惑になる」というボランティア専門家の意見を紹介した。

 だが今回の被災地は阪神淡路大震災より広範にわたっており、そもそも何倍もの数のボランティアが必要なはずだ。「ボランティアは押し掛けていい」と、関西学院大学災害復興制度研究所長の室﨑益輝教授は言う。「それなのにボランティアの足にブレーキがかかっている」

「迷惑ボランティア」という言葉もあるが、そもそもボランティアのマナーと、通常の社会生活でも必要な最低限のマナーに違いはない。日本災害救援ボランティアネットワーク理事長の渥美公秀は、悪気なく迷惑を掛ける人がいたら「注意すれば済む話だ」と言う。小さな懸念から行くこと自体を遠慮して断念しているのだとしたら、被災者にとってはそれこそ「ありがた迷惑」だ。

 室﨑によれば、阪神淡路大震災でボランティアの洪水を迷惑がったのは被災者ではなく、大量に来られたら登録や名簿作りの対応ができずに困る行政だった。現在もボランティアの主要な受け入れ先である各被災地の社会福祉協議会はこぞって応募資格を「制限」している。彼ら自身も被災したため受け入れる余裕がないからだが、受け入れ態勢は整っていなくても「被災者ニーズ」はあふれ返っている。

迷っている時間はない

 屋内退避指示が出ている福島県南相馬市の桜井勝延市長は先週、YouTubeで「自己責任でボランティアに協力してほしい」と訴えた。同市は公式にはボランティア受け入れを「自粛」しているが、現実には在宅高齢者の安否確認などに人手が足りず、知人などを「説得」して動員している。桜井市長が世界に救いを求めたのも、受け入れ体制は整わなくても「来てほしい」という本音の表れだ。

 震災から3週間が過ぎ、交通網も整い始め、緊急支援から復興支援に移った地域も多い。緊急時に行くべきだったのだから、今はなおさらどんどん行くべきだと、渥美は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

商船三井の今期、純利益を500億円上方修正 市場予

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高の流れを好感 徐々に模

ワールド

トランプ氏「BRICS通貨つくるな」、対応次第で1

ワールド

米首都の空中衝突、旅客機のブラックボックス回収 6
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中