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戦略なきオバマの「失政」
中東の同盟国があきれたオバマ政権の大局観なき外交政策がエジプト革命を「悪夢」に変える
「政治家にできるのは、歴史を歩む神の足音に耳を澄ますことだけだ。その音が聞こえたら、跳び上がって神の外套の裾をつかまなければならない」
プロイセン王国の偉大な政治家にして、140年前のドイツ統一の立役者、オットー・フォン・ビスマルクはそう言った。
バラク・オバマ米大統領は先週、就任以来2度目となる「神の足音」を聞いた。だがオバマは歴史的チャンスを逃し、中東における民主主義革命という波にまたも乗り損ねた。
オバマの大統領就任以来、この波は2度押し寄せている。1度目は09年6月に「グリーン革命」が起きたイラン。2度目は北アフリカ、なかでも地域最多の人口を擁するエジプトだ。
いずれの場合も、オバマは2つの選択肢に直面した。改革を求める若者を支援し、アメリカの国益にかなう方向へ波を導くか。あるいは何もせず、反動の波が襲い掛かるに任せるか。
イランでは、オバマは何もせず、デモ隊は容赦なくたたきのめされた。今回オバマは両方の選択肢を選び、エジプトのホスニ・ムバラク大統領に辞任を促すかと思えば、おずおずと「秩序ある政権移行」を求めた。
得意の演説はこなしたが
おかげでアメリカの外交政策は壊滅状態だ。エジプト軍内部のムバラクの側近だけでなく、カイロの街頭にひしめく若者も今やオバマに背を向けている。そして中東におけるアメリカの最大の盟友、サウジアラビアはムバラク支持を貫かなかった米政権に驚愕し、イスラエルはその無能ぶりに失望している。
この失態は、首尾一貫した大局的な戦略を持たないオバマ政権が招いた当然の帰結だ。
もっとも、全能の大統領など存在しない。だからこそ顧問がいる。つまり政策の真空状態の責任を問われるべきなのは、国家安全保障会議(NSC)。とりわけ、昨年10月まで安全保障問題担当の大統領補佐官を務めた無愛想な元海兵隊大将、ジェームズ・ジョーンズだ。
優れた大統領補佐官は、国際関係についての深い知識と、省庁間の縄張り争いを制する手腕を併せ持たなければならない。その意味で、誰よりも優れていたのがヘンリー・キッシンジャーだった。
キッシンジャーの最大の特質は、地政学的なリスクが渦巻く時代に、リチャード・ニクソン大統領と共に大局的戦略を練り上げた点にある。その戦略の基本は外交政策の優先順位を決定した上で、関連する重要問題で圧力をかけることだった。
一方、ジミー・カーター大統領の未熟な戦略的思考は危機を招いた。79年に起きたイラン革命は、カーター政権にとって予想外の大事件だった。
どこか聞き覚えのある話だ。「私たちはこの2年間、中東和平やイラン問題をめぐって戦略会議を重ねてきた」と、ある米当局者は先週ニューヨーク・タイムズ紙に語った。「そのうち何人がエジプト情勢の不安定化を考慮に入れていたか。ゼロだ」
戦略的思考の本質はシナリオを想定し、それに対する最良の反応を熟慮することにある。だがオバマとNSCがしているのは、お得意の感情に訴える演説を用意することだけだ。
09年6月、エジプトを訪れたオバマはカイロ大学でこう演説した。「アメリカとイスラム教は重なり合い、同じ価値観を共有している。正義と進歩、寛容と人類の尊厳という価値観を」