最新記事

北朝鮮の暴挙に知らん顔するな

北朝鮮 変化の胎動

強まる経済制裁の包囲網
指導者の後継選びは最終局面に

2010.09.17

ニューストピックス

北朝鮮の暴挙に知らん顔するな

爆破犯人の北朝鮮に何も行動を起こさないと国際社会は誤った信号を送ることになる

2010年9月17日(金)12時04分
ダニエル・ピンクストン(核拡散問題専門家、ブリュッセルのシンクタンク「国際危機グループ」北東アジア部長代理)

 今年3月26日に韓国海軍の哨戒艦「天安」の船体が外部爆発で真っ二つに割れ、沈没した事故について、韓国政府は5月20日にも正式な調査結果を発表する。韓国側が主張する黄海上の南北軍事境界線付近で起き、46人が死亡・行方不明となったこの事故は、ほぼ北朝鮮の犯行とみられている。その見方はおそらく正しい。

 南北の海軍は09年11月にも黄海で交戦しており、死者を出すほどの大きな損害を被った北朝鮮が報復の機会を狙っていたようだ。金正日(キム・ジョンイル)総書記の3男で後継者と噂される金ジョンウンが、軍の信任を得るために攻撃を計画、もしくは承認したとも考えられている。

 北朝鮮の関与が明白になったとしても、対抗手段は限られる。軍事力による制裁は何の得にもならないはずだ。韓国政府がそうした意図をちらつかせるだけで市場は動揺する。激怒はしていても、国民の大半は危機の広がりに伴うコストの増大と全面戦争のリスクを嫌うだろう。

 打つべき手がないからといって、韓国政府や国際社会は今回の事件を無視するわけにはいかない。何もしなければ北朝鮮に誤ったメッセージを送ることになる。だからこそ、韓国政府は現在どのような対応をすべきか探っている。

 多くの保守派は、韓国政府が北朝鮮南部に開設した開城工業団地を閉鎖すべきだと考えている。この南北共同プロジェクトでは、北朝鮮の労働者約4万人が約100の韓国企業で働いている。

 しかし閉鎖は得策ではない。北朝鮮がすぐさま軍事境界線を封鎖し、開城工業団地にいる約1000人の韓国人を人質に取る可能性があるからだ。

 韓国南部沖の済州島と本土の間にある済州海峡で、北朝鮮船舶が航行するのを禁止する手もある。だがこれは04年に両国が結んだ海洋協定に違反するため、北朝鮮は海難救助など人道的条項を含んだ海洋協定そのものを破棄するかもしれない。

追加制裁の余地はないが

 対抗策として、北朝鮮が領空通過を拒否することも考えられる。そうなると、韓国の民間航空機は北朝鮮上空を迂回しなければならなくなる。結果として飛行時間は長くなり、燃料コストも増える。

 韓国が済州海峡から北朝鮮船舶を締め出せば、韓国南岸を通過する密輸船も捕捉しにくくなる。韓国政府にとっては、海洋協定を維持したまま大量破壊兵器などの違法な積み荷を摘発し、北朝鮮による武器輸出を阻止するほうが賢明だろう。

 これまでの自制ぶりを考えれば、今回の沈没事故の原因が北朝鮮にあることがはっきりしたとしても、韓国政府と友好国は北朝鮮に対して慎重なアプローチを取るべきだ。

 第1に、事件の証拠は国連安全保障理事会に提出されなければならない。これは地域における平和と安定を脅かす事件だからだ。

 北朝鮮に追加制裁の余地はほとんどなく、事件は53年の朝鮮戦争休戦以来、敵同士のままである南北間の戦争行為と受け止められる可能性もある。それでも国連安保理への報告は、北朝鮮に制裁を科す義務があることをすべての国連加盟国にあらためて考えさせるきっかけになる。

 国連制裁の対象は大量破壊兵器の取引とそれに関わる組織、個人、資産だが、安保理は北朝鮮への贅沢品の輸出も禁じている。現体制に忠誠を近い、その維持に手を貸す人間にばらまかれるからだが、制裁は散発的だ。

 制裁を効果的にするには、中国を引き入れる必要がある。国際社会が中国に、北朝鮮への贅沢品の輸出を取り締まる義務があることを再認識させなければならない。

米韓同盟を「解消」するな

 第2に、再発を防ぐための監視と抑止力の強化がなされなければならない。韓国政府は既にこれに着手しており、国際社会は力を貸すべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中