最新記事

原油流出封じ込め後の重大リスク

BP原油流出

史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓

2010.07.16

ニューストピックス

原油流出封じ込め後の重大リスク

強力なキャップで噴出口を塞いだのはいいが、油井の脆い場所に大穴が開く可能性もある

2010年7月16日(金)12時08分
イアン・ヤレット

小さな成功 一時的な封じ込めはできたが、問題はこの先だ(7月12日、原油の噴出口に新しいフタをする作業のライブ映像) BP-Reuters

 英石油大手BPによると、メキシコ湾の深海底にある原油噴出口のキャップを取り替える作業は、作戦開始から3日目の7月12日に無事完了した。これまでは6月に取り付けたキャップから管を通じて原油を一部回収していたが、すき間から漏れ出す原油も多かったため、より密閉性の高いキャップ「トップハット10」を新たに取り付けた。

 うまくいけば、これで油井を完全に封印して原油流出に終止符を打つか、最低でも流出する原油をすべて捉えて海上に待機している数隻の原油回収船に送り込むことができるかもしれない。

今度のフタは100%の強力密閉

 古いキャップは、掘削装置と海底の坑口を連結するライザーパイプの切断口の上に載せ、管から原油を海上に送るだけの単純なものだった。だが高さ5.5メートル、重さ75トンを超える巨大なトップハット10は、爆発の兆候を察知して坑井を密閉する防噴装置を3段積み重ねたような複雑な構造。外へ出ようとする原油の圧力を完全に封じ込められるだけの強力な水圧式バブルを備えている。

 密封の次のステップは圧力試験だ。BPは13日、一時的に油井を完全密閉し、原油の噴出圧力を計る。長期的な封じ込め戦略を練る際に欠かせないデータだ。試験では、新しいキャップに付いたバブルをすべて閉じ、原油の回収を中断する。その上でキャップに付いたセンサーが、噴き出そうとする原油の最大圧力を計測する。このデータから、科学者たちは油井の穴が構造的に強固か脆いかを推測できる。「原油が油井の口から出てきているだけで、横から漏れ出していないことを確かめなければならない」と、BPのダグ・サトルズCOO(最高執行責任者)は言う。

原油の圧力は高いほうがいい理由

 圧力は高いほうがいい。油井の内側は傷ついておらず、原油はすべて油井の中を通って噴き出している証拠だからだ。そうであれば、油井をそのまま封じ込めることもでき、流出も止まる(それでも、油井にセメントを流し込んで埋めるための救助井を作る作業は続ける方針だ)。

 逆に圧力が低ければ問題だ。深海の油井のひびなどから原油が横に漏れ出して、周囲の岩の間などに染み出していることを示すからだ。最悪の場合、この原油は岩の表面を突き破り、メキシコ湾の海底のどこかにコントロール不能の噴出口を作ってしまうかもしれない。もし圧力が低ければ、再びバルブを開いて原油を海中に出すしかない(BPは、流出する原油を全量回収できるだけの回収船の準備が整うと言っている)

 だが、万一試験の結果が不幸なものだったとしても、油井の状態についてわずかながら実証データは得ることはできる。それこそ、ずっと必要で得られなかったものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中