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BP原油流出
史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓
深海油田探査の野望と教訓
極限を追い求めたツケ
簡単に採取できる石油・天然ガスが底を突き、非在来型の採取困難なエネルギー資源の開発が進むが
テキサス州ワイズ郡では、バーネット頁岩(けつがん)に閉じ込められた天然ガス、いわゆるシェールガスの開発事業が進んでいる。
メキシコ湾の原油流出事故で、多くのことが分かった。英BPの無能さ、監督当局のお粗末さ、生産技術重視で安全技術をないがしろにする石油業界の体質......。
もっと大きな事実も明らかになった。エネルギー資源の開発が計り知れない環境リスクを伴う時代に突入したということだ。ハンプシャー大学(マサチューセッツ州)のマイケル・クレア教授によると、私たちは「極限エネルギー」の時代に生きている。
アメリカの石油生産の歴史を振り返ってみよう。テキサス州ボーモントに第1号の噴出油井が完成したのは1901年。当時の油田地帯では、ちょっと掘れば、石油が噴き出した。陸上で採掘できる石油が底を突くと、海底油田の探査が始まり、浅瀬の石油があらかた取り尽くされると、今度は深海に眠る油田に探査の目が向いた。
85年には、メキシコ湾の300メートル以深の海底から採掘される原油はわずか2100万バレルで、メキシコ湾一帯で生産される原油の6%にすぎなかった。それが09年にはメキシコ湾原油全体の80%を占める4億5600万バレルにまでなった。今ではメキシコ湾の深海油田はアメリカ産原油全体のざっと25%。それが環境にどんな代償をもたらすかは今回の事故で明らかだ。
風力や太陽光にも問題が
北米で採掘困難な石油が見つかったのは、メキシコ湾だけではない。北極圏国立野生生物保護区(アラスカ州)の油田開発は環境に取り返しのつかないダメージを与えかねないため、ブッシュ前政権でさえ見合わせた。
カナダのアルバータ州で進むオイルサンド開発には大きな期待が寄せられている。何しろカナダは、アメリカの隣の友好的な民主国家。アルバータ州当局によれば、オイルサンドを含めるとカナダの原油埋蔵量は「サウジアラビアに次いで世界第2位」になるという。推定埋蔵量は1718億バレル。世界の埋蔵量の13%で、イラクとロシアの埋蔵量の合計にほぼ匹敵する。
とはいえオイルサンドに含まれるのは油ではなく、ビチューメン(歴青=れきせい)という高粘度の砂岩。オイルサンドからビチューメンを回収するには、露天掘りで採掘した砂岩から抽出したり地下に水蒸気を注入してくみ上げるなどの方法があるが、採取に大量の水と天然ガスを要する。オイルサンドから1バレルの合成原油を生産する過程で排出される二酸化炭素(CO2)は、在来型の石油生産の2倍だ。
天然ガスは燃焼で排出されるCO2が石油より少ない。しかもアメリカではここ数年、オザーク山地とアパラチア山脈で天然ガスを含む頁岩層が発見され、開発ブームを呼んでいる。
極限エネルギーより省エネを
しかし、このシェールガスも採取には問題が付きまとう。頁岩に水と溶剤を噴射するフラッキング技術を使うため、溶剤の混じった水が地下水を汚染する恐れがあるし、採取地域で異常な地震活動が観測されたこともある。
再生可能エネルギーでさえ環境負荷はゼロではない。マサチューセッツ州コッド岬沖の風力発電施設は沿岸の景観を損ない、野生生物に与える影響も懸念されている。カリフォルニア州のモハベ砂漠に巨大な太陽光発電所を造る計画も同じ理由で反対に遭った。
これまで私たちは背に腹は代えられないとして、環境リスクに目をつぶってきた。「エネルギー価格が上昇すればするほど、より問題のあるエネルギー資源の開発が進む」と、クリントン政権のエネルギー次官補を務めたジョセフ・ロムは警告する。