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ディズニーを超えたピクサー・アニメ
元コンピュータ会社がCGアニメで大ヒットを飛ばし続ける秘密
(『カールじいさんの空飛ぶ家』が作品賞、オリジナル脚本賞など5部門でノミネート、長編アニメーション賞受賞)
ピクサーは86年の設立時にはアニメ制作会社ではなく、コンピューターのメーカーだった。多くのスタッフは自分をアニメ制作者だと思っていたが、彼らが仕事で作った短編アニメは自社コンピューターの性能をアピールする販促材料にすぎなかった。
長編アニメ映画『トイ・ストーリー』の制作にゴーサインが出たのは91年。スタッフは急いで脚本執筆セミナーに参加した。彼らは素人同然だったのだ。 それ以来ピクサーが制作したアニメ映画はどれも絶賛され、最低でも1作で3億6000万ドルを稼ぎ出す大ヒットになっている。
10作目に当たる最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』の主人公は、妻を亡くした78歳の老人。開発業者に立ち退きを迫られた主人公は驚くべき行動に出る。作品のコンセプトは野心的で、主人公は型破り。物語としては非常に難しい素材に挑みながらも、子供でも楽しめる作品に仕上がっている。
アニメ映画はもともと、子供向けの娯楽ではなかった。初期のアニメ制作者は、映画には新聞以上の可能性があると気付いた意欲的な漫画家や有能な風刺作家だった。無声映画時代の短編アニメは、型にはまった長編映画よりずっと独創的で水準が高かった。
初期のアニメは前衛的
風変わりな作品も多かった。カナダ出身の漫画家ラウル・バレによる1915年のアニメ作品では、ニワトリが産んだ卵から小さな車が生まれる。彼の別の作品では謎めいた箱から2本の腕が出て、主人公を捕まえたりする。
当時のアニメのなかには、50年後の成人向けコミックも顔負けなくらいエロチックな作品もあった。ヨーロッパで提唱されている映画の前衛的な方法論を「実践できるのは『フィリックス・ザ・キャット』などアニメ作品だけだろう」と、ニュー・リパブリック誌は29年に論じた。初期の短編アニメは「形式から完全に解放されており、ほとんどアバンギャルドの域に達していた」と、映画評論家ビンセント・キャンビーは書いている。
こうした土壌から才能を開花させたのが、史上初の本格的な長編アニメ映画を作ったウォルト・ディズニーだった。ディズニーは複雑なストーリーで観客を悩ませることなく、斬新なスタイルの楽しい視覚芸術を見事に生み出した。
ディズニーの黄金時代が始まったのは『白雪姫』を完成させた37年。以後、40年に『ピノキオ』と『ファンタジア』、41年に『ダンボ』、42年に『バンビ』を発表し、アニメ界に金字塔を打ち立てた。
旧ソ連映画界の巨匠セルゲイ・エイゼンシュテインは以前、「ディズニーの諸作品はアメリカ人による最大の芸術的貢献だ」と賛辞を贈った。動物は登場するものの、当時のディズニー映画は本当の意味での寓話ではなかった。『白雪姫』や『ダンボ』を見ても、現実世界で役立つ教訓はほとんど得られないだろう。観客にカタルシスを与えるように工夫を凝らした現実逃避的なおとぎ話だった。
技術的な完成度は高かったが、テーマにはあまり深みがなかった。大恐慌の暗い時代に芽生え、第二次大戦後の繁栄の下で高まった「子供時代への憧れ」を前面に打ち出した作品だった。一方、ピクサーの作品はディズニーとは異なり、子供時代への憧れとは無縁だ。
技術面では、ピクサーはディズニーが奥行きを表現するマルチプレーン・カメラでアニメに新風を吹き込んで以来、最大の技術的進歩を実現した(ピクサーは06年にディズニーの子会社になった)。しかし作品のテーマに関していえば、ピクサーはディズニーより無声映画時代の独創的な短編アニメに近い。
ピクサーの作品にはミュージカル的な場面は入らず、魔法に頼ることもない。ストーリーはおとぎ話の焼き直しではなく、現実の世界に近い舞台で物語が展開する。