最新記事

オバマ大統領にノーベル平和賞

本誌が選ぶ10大ニュース

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2009.12.22

ニューストピックス

オバマ大統領にノーベル平和賞

「核兵器のない世界」構想や国際協調への取り組みなどの理由で、大統領就任1年目ながら異例の受賞が決まった

2009年12月22日(火)12時01分
クリストファー・ヒッチェンズ(バニティ・フェア誌コラムニスト)


あまりに軽いオバマのサプライズ受賞

「時期尚早」という批判は当然だ。現職大統領が実績を伴わない称賛を浴びるべきでない

 アルフレド・ノーベルには、作家のマーク・トウェイン、アーネスト・ヘミングウェイと奇妙な共通点がある。その共通点とは、新聞で自分の死亡記事を読むという経験を味わったことだ。

 新聞に間違って掲載された死亡記事の中で、当時の大量破壊兵器だったダイナマイトの実用化を推し進めた人物という経歴が極めて強調されていたことに意気消沈したのだろう。ノーベルは自分が本当に世を去るときに載る死亡記事をもっと好意的なものにしたいと願い、自分の遺産で国際平和に関する賞を設けることにした。

 このノーベル平和賞の創設のきっかけが「時期尚早」な死亡記事だったとすれば、アメリカ大統領に就任してまだ1年もたっていないバラク・オバマ米大統領が09年のノーベル平和賞受賞者に選ばれたことも「時期尚早」以外の何ものでもない(これでも最も遠回しな表現を選んだつもりだ)。

 これまでにノーベル平和賞を授与された人物には、大きく分けて5つのタイプがある。

1 国際交渉と外交の分野で現実主義者の政治家として手腕を振るった人物

 平和主義者には程遠かったセオドア・ルーズベルト米大統領が日露戦争の講和を仲介した功績を理由に1906年に受賞したのは、その1つの例だ。現職の政治指導者である西ドイツのウィリー・ブラント首相(71年)やソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領(90年)が受賞したのもこのタイプに入る。

2 ご都合主義の偽善的な行動を取った人物

 リチャード・ニクソン米大統領の国家安全保障問題担当補佐官だったヘンリー・キッシンジャー(73年)とパレスチナ解放機構(PLO)の議長だったヤセル・アラファト(94年)は、それぞれベトナム戦争とパレスチナ=イスラエル紛争の和平合意締結への貢献が評価されて、交渉相手と共同で受賞者に選ばれた。しかし、いずれの場合も平和が続かないことは最初から明らかで、実際やがて血みどろの戦いが再開された。

 キッシンジャーにノーベル平和賞を授与したことで、平和賞の授賞主体であるノルウェー政府は激しい批判を浴びた。敬愛されていた高齢のオラフ5世国王が首都オスロの路上で雪玉を投げ付けられる事件まで起きた(キッシンジャーの交渉相手だった北ベトナムのレ・ドク・トが受賞を辞退するだけの見識の持ち主だったことは指摘しておくべきだろう)。

 73年当時のイタリアのある新聞は「停戦合意を結ぶために戦争を始める行為を奨励」する選考結果だと皮肉ったが、94年の場合はさしずめ「戦争を始めるために停戦合意を結ぶ」人間にご褒美を与えたと言えそうだ。

3 人権擁護に努めた人物

「国家間の友愛関係の促進、常備軍の廃止・縮小、平和のための会議の開催・促進に最も貢献した人物」にこの賞を授与すべしとノーベルは遺言で述べているが、人権と平和との間に関係があるかどうかは意見の分かれるところだ。

 アメリカの公民権運動指導者マーチン・ルーサー・キング牧師(64年)が創設者のこの言葉の(文言はともかく)精神を体現していたことに異論がある人はまずいないだろう。

 しかし、アグネス・ゴンジャ・ボヤジュ(79年)はどうか。マザー・テレサという呼び名で知られるこの修道女は、平和のために活動していると述べたことは1度もなく、受賞スピーチでは人工妊娠中絶こそ世界平和を脅かす最大の脅威だと述べている。

 ナチス・ドイツ時代に強制収容所に入れられていたカール・フォン・オシエツキー(35年)やソ連の反体制活動家アンドレイ・サハロフ(75年)へのノーベル平和賞授与は、戦争を防いだり終わらせたりする効果の有無は別にして、人権尊重のメッセージを発するという目的を担っていた。こうした状況の下、平和賞と別に人権に特化した別の賞を設けるべきだという声も強まっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中