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2009.12.08

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盧武鉉(ノ・ムヒョン、韓国/元大統領)

人権派弁護士から韓国政界のトップへ駆け上がったが、就任後は難問が山積

2009年12月8日(火)12時11分
ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)、李炳宗(ソウル)

 深夜、韓国有数の港湾都市の釜山で、警察のパトロールを避けて走る車があった。87年のことだ。ハンドルを握っていたのは人権派弁護士の盧武鉉(ノ・ムヒョン)。市内の数カ所で、反政府デモが行われていた。

 同乗者は、盧がかつて弁護を行った学生運動家のイ・ホチョル。彼は反政府活動で投獄されたとき、拷問を受けたことがある。車のトランクには、80年に政権を握った全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領の退陣と民主化を求める小冊子が何千部も隠してあった。盧と李の神経は緊張で張り詰めていた。「警察に見つかったら逮捕されていただろう」と、李は言う。

 盧と同世代の多くの韓国人は長年、民主主義の実現のために闘ってきた。盧も政治活動に献身してきたが、その苦労が報われたのは最近のことだ。12年間で6回の選挙に出馬し、4回落選。1年前でさえ、政界での盧の知名度は低かった。だが与党・新千年民主党の大統領候補を決める党内選で、56歳の盧は予想外の圧勝を収めた。

 昨年12月の大統領選で、盧はインターネットを駆使する朝鮮戦争後生まれの世代を味方につけ、保守的な対立候補に勝利。2月25日に77歳の金大中(キム・デジュン)から大統領の座を引き継ぎ、韓国政界の世代交代を実現させた。

本誌コラム「日本が伝えない盧武鉉・自殺の真実」

 盧は国内の改革に意欲を燃やしているが、北朝鮮の核開発危機への対応に追われそうだ。北朝鮮が強硬姿勢を取るなか、積極関与策を続けるべきだという盧の主張は逆風にさらされ、米韓関係もぎくしゃくしている。アメリカは、北朝鮮との緊張緩和に向けて盧の助力を得たいところだろう。イラクへの武力行使に踏み切ってから、北朝鮮が無謀な動きに出ると面倒なことになる。

 情報筋は、北朝鮮はミサイル発射実験や地下核実験などに踏み切りかねないとみている。北朝鮮は相変わらずアメリカとの直接交渉を求めているが、米ブッシュ政権はいっさいの妥協を拒んでいる。下手をすると、盧は傍観者の立場に追いやられかねない。

外交面での経験不足が弱点に

 盧は大統領選中、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の北朝鮮に対する強硬姿勢を批判し、反米派の学生の取り込みに熱心だった。だが、本誌が先週行ったインタビューでは慎重な発言が目立った。「韓国にもアメリカにも強硬な人はいるし、極端に走る人もいる」

 盧はインタビューで米外交の「単独行動主義的側面」に言及したが、具体的な説明を求めると、しばらく口をつぐんだ後でこう語った。「この話題は避けたほうがよさそうだ。あなたがたにもお考えはあるだろうが、それを確かめるようなことはしたくない」。それから一呼吸おいて、こう続けた。「私は妻をとても愛しているが、不満な点がないわけではない」

 うまい比喩だが、外交という修羅場を切り抜けるには、もっと勉強が必要だ。外交に弱いという評判は、一刻も早く返上したほうがいい。盧は当選直後、在韓米軍撤退の可能性について口を滑らせた。ワシントンでは、盧が左派寄りの社会活動家とされていることも懸念材料となっており、同盟国として韓国をあてにできるのかという疑いの声もある。

現実離れした構想をいだきがち

 双方が相手をよく知らないことが、米韓関係がぎくしゃくしている一因だ。盧は訪米経験がないし、経歴は美化されがちで本当の姿は謎に包まれている。貧しさに負けずに成功した人物とか、無私の社会派弁護士といったレッテルでは、盧の本質は見えない。側近でさえ、盧がどんな大統領になるのか見当がつかないというのが本音らしい。

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