最新記事

トンデモ科学が地球を救う?

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

トンデモ科学が地球を救う?

人工火山灰で太陽光を遮断、CO2を回収して埋蔵──巨大スケールの地球工学は温暖化対策の切り札になるか

2009年11月24日(火)12時11分
フレッド・グタール(サイエンス担当)

 フィリピンのルソン島にあるピナトゥボ山が大噴火したのは91年6月15日。空に噴き上げられた大量の火山灰が太陽を覆い隠し、何百人もの死者を出す大惨事となったが、この噴火で人類を気候変動から救う方法も示された。

 成層圏に達した2000万トンの二酸化硫黄(SO2)は地球を煙霧で覆い、太陽光の一部を宇宙に反射した。それから数年間で地球の気温は全体で0・5度下がり、温暖化の時計の針を巻き戻した。ピナトゥボ山が噴火する前の100年間、人類の経済活動によって排出された温室効果ガスは地球の気温を1度上昇させていた。

 この冷却効果は一時的なもので、地球の気温は1年ほどで再び上昇に転じた。それでも研究者は、このピナトゥボ山の噴火は地球温暖化対策の重要なヒントになるかもしれないと考えた。

 簡単な計算の結果、火山噴火と同じ状態を人工的につくり出せることが分かった。SO2をロケットで打ち上げる、飛行機で高い高度から散布する、巨大な煙突から放出する----このような方法でSO2をうまく上層大気に運べれば、すぐに気温を下げる効果が期待できる。しかもコストは、最も楽観的な温室効果ガスの排出削減案と比べても1000分の1で済む。

 こうして一部の科学者は、最も効率的で副作用の少ない「地球工学(ジオエンジニアリング)」の研究に力を入れ始めた。

 それから約20年、地球工学は温室効果ガスの排出削減に代わる気候変動対策を生み出そうとしている。SO2のような物質を利用して、太陽光線を宇宙空間にはね返すという「ピナトゥボ効果」の応用研究もその1つだ。

 具体的には宇宙空間に巨大な鏡を設置して、太陽光線を地球から遮るという案が出ているが、実現には地球が破産しかねないほどコストが掛かる。90年代には水素爆弾の父として知られるエドワード・テラーが、反射性のある金属の微粒子を大気中にまくことを提案した。こちらは映画『博士の異常な愛情』のマッドサイエンティストを連想させる案だ。

 もう少し一般人にも受け入れやすい案としては、大気中の二酸化炭素(CO2)を回収し、地下に貯留するというものがある。現在の実験的なクリーンエネルギー発電所で採用されている炭素回収・貯留(CCS)と呼ばれる技術だ。ただし、クリーンな石炭火力発電所は今後の排出ガスを減らすだけで、根本的な解決にはならない。

 気候変動についてはまだ不明な部分が多いが、分かっていることも1つある。CO2の寿命は恐ろしく長いということだ。排出されたCO2は1000年間も大気中にとどまり、今後どれだけ排出量を削減しても、地球を暖め続ける。

 そのため危機感を募らせた地球工学の専門家は、気候を人工的に変えることを夢見るようになった。具体的な方法は2つ。大気中にあるCO2を回収することと、太陽エネルギーを反射して気温を下げることだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中