最新記事

属国ニッポンに「独立」のとき

日米関係
属国か対等か

長年の従属外交を脱して
「ノー」といえる関係へ

2009.11.10

ニューストピックス

属国ニッポンに「独立」のとき

自衛隊派遣でまたもやアメリカへの追従ぶりを露呈した日本。思考停止から脱却し、尊敬される国になる日は来るか

2009年11月10日(火)12時34分
川口昌人、デーナ・ルイス

強力な絆 日米首脳会談でブッシュと「意気投合」した小泉は、米政府の予想を上回る速さで自衛隊派遣を決断した©Kevin Lamarque-Reuters

 小泉純一郎首相が先月、インド洋に自衛艦を派遣したことに、アメリカは大いに満足したようだ。ジョージ・W・ブッシュ大統領は日本の「決断」を称賛。出航のもようを報じるCNNテレビの映像には、「日本の新たな戦争」というロゴがつけられた。

 リチャード・アーミテージ米国務副長官が語ったとされる「ショー・ザ・フラッグ」という言葉に、小泉はきわめて短期間でこたえてみせた。「(日本の対応は)米政府の期待以上だったし、スピードも予想を上回った」と、アメリカの有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(ワシントン)のウィリアム・ブリアは言う。

 だがアメリカ側が満足している一方で、不満をもつ日本人が大勢いるのはなぜだろうか。

 構造改革を進める小泉の人気は依然として高い。だが、とくに都市部の若い有権者の間では、アメリカにひたすら追随する政府の動きに不満をいだく向きが少なくない。「ほかに選択肢はなかったと思うが、忸怩たる感情はある」と、証券会社勤務の河田剛は言う。

 多くの日本人は、新しい世界秩序の中で日本が独自の立場を取るべきときが来たと考えている。アメリカの指示にただ従うだけの「属国ニッポン」であり続けるのか、あるいは自立して自らの意見を主張するのか。多数の日本人は、もっと自立した路線を取るべきだと答えるだろう。

 「自衛隊の派遣自体については賛成だが、いつもどおりのイエスマンぶりはちょっと恥ずかしい」と、ソフトウエアエンジニアの坂井恵は言う。「日本だから言えた、という部分が欲しかった」

 だが、それは可能なのか。50年に及ぶアメリカとの相互依存関係から踏み出して、日本は自分の足で立つことができるのか。そして日本国民には、自立の代償を支払う覚悟があるのか。

 アメリカからの自立を望む新たな流れは、1960年代の左翼的な反米運動とは異なる。当時のようなストレートな反米感情をいだくには、今日の日米関係はあまりに密接だ。

「沖縄の思い」に気がついた日本人

 昨年度の日本の対米輸出額は一5兆3559億円。アメリカも、ハイテク部品の供給源として、また航空機から映画、兵器にいたる製品の輸出先として日本に依存し、日本への輸出額は昨年だけで約7兆7000億円にのぼる。政治、経済、文化のあらゆる面で、日米の絆はかつてないほど強い。

 とくに60年代以降に生まれた日本人は、「生まれたときからアメリカ的なものに囲まれ、それを前提として育ってきた」と、評論家の宮崎哲弥は言う。「そこを否定すれば自己否定になる。だから、単純な反米にはいかない」

 一方で現代の日本は、戦争で国土や経済が荒廃し、アメリカに国の安全をゆだねきっていた50年代の日本とは違う。「米ソが対立していた冷戦構造の下では、日本はアメリカの大事なパートナーだった」と、石原慎太郎東京都知事は言う。「だが冷戦が終われば、世界第二の経済大国である日本はアメリカの競争相手でしかない」

 つまり、日本政策研究所のチャーマーズ・ジョンソン所長が言うように「日本は自国がアメリカの衛星国であること、それが自分の国益に必ずしも一致しないことにようやく気づきはじめた」のだ。

 駐留米軍に広大な土地を提供してきた沖縄の人々が何十年もいだいてきた思いを、今やすべての日本人が共有ししつつある。問題は、日本が自立するにはどの程度の軌道修正が必要なのかだ。

 日本の政治中枢にいる人々の多くは、微調整で十分だと考えているようだ。「日本の外交にとって最も重要なのはアメリカとの同盟関係だ」と、小泉政権で内閣官房参与を務める外交評論家の岡本行夫は言う。「(そのうえで)日米安保条約の原則にかかわらない外交政策については、日本は独自の考えをもつべきだと思う」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中