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岐路に立つEU
リスボン条約発効、EU大統領誕生で
政治も統合した「欧州国家」に
近づくのか
ニューストピックス
一つになりたいヨーロッパの夢
ヨーロッパを仕切る「政府」になりつつあるようにみえるEU(欧州連合)。そこでは今、地域全体に適用される憲法としての意味合いが強いリスボン条約の成立に向けた動きが活発になっている。
EUはもともと1958年にフランスや西ドイツなど6カ国が、経済の統合を目的につくった欧州経済共同体から始まった。現在は市場や通貨だけでなく政治、外交、軍事など幅広い分野での統合をめざす。統合が進んだことで加盟国の経済が潤う効果も出ている。
しかし加盟国が27にまで増え、文化や生活水準が違う旧共産圏の国々もかかえるようになった今、EUは自分を見直す時期にきた。アメリカのように加盟国を「州」のように扱う連邦政府をめざすのか、それともあくまで国家の緩やかな連合体であり続けるのか。
EU憲法として定められたリスボン条約は、EUの「政府化」を進めるものだ。参加国に共通するルールを決めることで、一つのヨーロッパという超国家の誕生に一歩近づくことになる。
EUの統合が今よりも強まることには、加盟国にとって良い面と悪い面がある。貿易や観光の稼ぎが増えるのはどの国も大歓迎だが、労働者を送り出すばかりで自分の国でちっともカネを使わない国に足を引っ張られるのはまっぴらごめん、という具合だ。
そのせいもあって、EUの政府化は過去に一度失敗している。3年前、フランスとオランダの国民投票で、リスボン条約の前身である欧州憲法が否決されたのだ。おかげでEUの役目や目標を問う議論は何年もストップしてしまった。
「EU大統領」が誕生
両国の国民が反対した背景には、憲法の成立でEUの統合がさらに進むと、自国の産業がEU内の他の国に奪われたり、東欧からの移民がさらに増えたりするという不安があった。実際に東欧がEUに加盟してからというもの、西欧諸国では移民に職を奪われて失業する国民が急増している。
今も参加国のなかには、EUの統合が強まりすぎることをよく思っていない国もある。統合のうまい汁は吸いたいが、だからといって今ある特権や独自性は失いたくない。ヨーロッパの国々にとって、EUという存在をどう位置づけるかという議論は、まだ道半ばだ。
今のところ、加盟国はリスボン条約を強引に実現させようとしている。「憲法」という言葉がないのもそのためだ。憲法でなければ改正に必要な国民投票も避けられる。欧州憲法の失敗から、ほとんどの国は議会での手続きだけで条約を受け入れようとしている。EU歌やEU旗といった「国家」を連想させる条文もなくなった。
裏にはイギリスやフランスなど大国の思惑もあると考えられる。たとえば条約の目玉は「EU大統領」の創設だが、これは今まで半年ごとに順番で受け持ってきたEUの委員会の議長に代わる役職。2年半の任期の間、EU全体の取りまとめや、アメリカや中国などを相手にする「EUの顔」となる。
現在の持ち回り制では、加盟国数が多い東欧の国々が議長を務める期間が長くなる。しかし大統領制で選ばれれば、その国が長い期間EUを思いどおりにできる。
多数決の方法も国の数だけでなく、国民の数に比例したものも同時に導入しようとしている。これも人口の多い大国には有利。EUの政府化を進めつつ、それを自分たちがコントロールできる都合の良さをねらっているようにみえる。
一方で東欧などの新参の加盟国からすれば、EUの統合がさらに強まれば自国経済がもっと潤うことになる。彼らが条約によって得るメリットも大きいが、大国の思いどおりにさせるつもりもないらしい。初代大統領にはトニー・ブレア前英首相が本命視されているが、東欧は独自に代表候補を立てて対抗する構えを見せている。
各国の思惑が複雑に入り交じり、いまひとつまとまりに欠けるヨーロッパを象徴するリスボン条約。09年の発効をめざして今後も議論が活発になるはずだが、それはヨーロッパのなかでEUが果たすべき役割とは何かをあらためて考えるのにも最適の場となるだろう。
条約が効力をもつためにはすべての加盟国のゴーサインが必要。1カ国でも拒否すれば政府化の試みは再び泡と消える。EUが国家になるという未来像は、まずこの条約の成功にかかっている。
[2008年4月16日号掲載]