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ウクライナを見捨ててはならない
西側諸国はロシアの圧力に屈せずEU加盟をめざすこの国に手を差し伸べよ
わずか5年前、ウクライナは民主主義を信奉する世界中の政治家の称賛の的だった。民主化運動オレンジ革命は、89年のチェコスロバキアでのビロード革命やその他ヨーロッパの平和的な民主革命の系譜に連なるものにみえた。ロシアからの圧力にもかかわらず、ウクライナは独自の立場を守り、欧州・大西洋地域の一員に加わる意思を表明した。
しかし今、大人になろうとしない子をもつ親のように、世界の民主主義国はウクライナに背を向けはじめている。バラク・オバマ米大統領は初の欧州歴訪でロンドンでのG20首脳会議(金融サミット)に出席し、ヨーロッパとロシアの指導者と会談する。フランスやチェコ、トルコにも立ち寄る予定だ。だが黒海を隔てた対岸のウクライナは眼中にない。
イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相は天然ガスに関する対立が起きるたびに、公然とロシアの肩をもってきた。ウクライナを定期的に訪問し、毎年首脳会談を行っていたドイツのアンゲラ・メルケル首相も今はウクライナを無視している。
ロシアのドミトリー・ロゴジンNATO(北大西洋条約機構)大使はフランスの週刊誌に、ニコラ・サルコジ仏大統領はウクライナのNATO加盟に反対しており「ヨーロッパにおけるロシアの盟友だ」と語った。それでもウクライナ政府は、ヨーロッパの一員になるしか選択肢はないと考えている。
挑発的なグルジアとの違い
確かにウクライナは国内に多くの問題をかかえ、EU(欧州連合)とアメリカはそれに対してほぼ無力だ。GDP(国内総生産)の40%以上は鉄鋼とアルミニウム関連で、輸出の低迷によって急速にマイナス成長に突入した。政治家はつまらない対立を繰り返し、互いを引きずり降ろすのに躍起だ。
それでも彼らは皆、民主主義は深く根ざしたと考えている。治安警察は存在せず、ジャーナリストは発言の自由を手に入れている。首都キエフはにぎやかで、身なりのいい人々が行き交い、不景気だというのに商店や公共施設には人があふれ、新車が走り回る。
隣国グルジアとは違い、挑発行動は避けている。核兵器の保有は放棄し、NATOの任務にはすべて軍を派遣。ロシアの黒海艦隊に対しても平静を保っており、グルジアと一緒にされることにうんざりしている。ウクライナは欧州・大西洋地域の一員としての独立した権利を手に入れたいと願っている。
かつてはウクライナを訪問した欧州の要人が、この国はヨーロッパの一員になるだろうと語り、希望が見えていた。だが08年8月のロシアによるグルジア侵攻で西側諸国は震え上がり、ウクライナのNATO加盟を認めればトラブルと衝突が発生するというロシアの言い分をうのみにした。
ソフトパワーの支援でもいい
3月6日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談したヒラリー・クリントン米国務長官は、「リセットボタン」の模型がついた箱を手渡し、両国関係の仕切り直しを演出した。だがロシアにとってのリセットとは、ウクライナの内政を意のままにすることを意味する。
ロシア政府はウクライナを独立国として認めていない。アメリカとヨーロッパにとっても、ウクライナよりロシアが重要なことは明白だ。イランや核不拡散対策、アフガニスタン問題においてロシアの協力を得ることは、ブッシュ後の米外交の目標でもある。
だがウクライナへの支援はソフトパワーの形でもいい。EU各国の指導者はキエフ訪問を増やし、貿易と投資を促進することもできる。厳しいビザ(査証)の規制を緩和してもいいだろう。NATOの任務への参加の謝礼として、ウクライナ軍の近代化への援助も行われるべきだ。
ウクライナはロシアの傘下にあるとするロシアの世界観を、ウクライナの内政混乱を理由に欧米諸国が正当化することは、この国にとって最悪の展開だ。いま必要なのはウクライナをヨーロッパの国として扱う新しい政策だ。アメリカとEUは、近代化をめざすウクライナの政治家の話に耳を傾けるべきだ。
ロシアにとってそれは受け入れがたいだろう。しかしウクライナが、真の意味でEUとNATO加盟への道筋となるヨーロッパの一員になれば、EUとアメリカの将来的なパートナーとしてロシアが自らを見直す意味で、助けになるかもしれない。
[2009年4月 1日号掲載]