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中国の消費は世界を救えない
住宅や自動車の販売好調で8%成長を維持する見込みの中国経済。だが輸出は激減し消費も弱く、頼みは政府の景気対策なのが実情だ
中国の消費者はついに、浪費家のアメリカ人消費者と並んで世界経済を救う存在になるのだろうか。統計数字を一見すると、まさにそのように見える。
アメリカの消費者が自宅の資産価値の下落や金融資産の目減りを心配して家に引き籠もっている間にも、中国人は大挙して買い物に出掛けている。中国では住宅や車の販売急増に伴い、5月の小売売上高は前年同月比15・2%増と急伸した。一方で5月の輸出は前年同月比で26・4%も激減しているのに、今年の経済成長率は最高8%に達する可能性もある。これを、急成長する中国の中間所得層が景気回復を牽引するまでの力を付けた証拠とみる専門家もいる。
本当にそうなら、中国の製造業にとっても現地進出しているマクドナルドにとっても朗報だ。だが、間違えてはいけない。中国の好況を牽引している真の浪費家は、個人ではなく政府。実際、中国共産党ほど自由にお金を使える政権党は世界でもほかにない。2兆謖近い外貨準備がある上、予算に文句をつける野党もいないからだ。
中国の景気対策はGDP(国内総生産)の4%の規模で、2%のアメリカの倍。アメリカと違って、財政支出を増やすために外国からの借り入れに頼る必要もない。公共投資は今年初めに比べて30%増加し、鉄道や道路への支出は過去1年間で倍以上に増えた。
資金難で操業できない工場の支援や従業員の再教育向けに、補助金の支出も急増している。不動産市場も好調だ。銀行に貸し出しを命じる行政指導と政府自らの融資、さらに不動産減税が重なってアパート販売は急増。政府は車や冷蔵庫を買うためのクーポン券まで配っている。
中国経済が回復しているのは本当で、世界にとって素晴らしいニュースだが、中国がいまだに対米輸出に依存しているのも事実。政府の大盤振る舞いのおかげでその実態が見えにくくなっているだけである。
世界的な景気後退で、中国の輸出の約4分の1を担う南部の製造・輸出拠点は大きな打撃を受けている。5つ星ホテルは空室だらけで、職業紹介所には失業した出稼ぎ労働者があふれている。
広東省の工業地帯を流れる珠江も、以前より暗く見える。川沿いのホテルやレストランが放つけばけばしいネオンの明かりの多くが、「電力節約のため」消されてしまったからだと、広東省外事弁公室副主任の蘇才芳(スー・ツァイファン)は言う。「われわれはまだまだ輸出に依存している。特に対米輸出にね」
率直なコメントだ。だとすれば、中国の中間所得層が全米の中・低所得の消費者層「ウォルマート・ママ」に取って代わりつつあるという専門家の意見はかなり怪しくなる。珠江河口の工場集積地、珠江デルタ周辺の政府関係者たちからは、以前は輸出していた家電製品や安い衣料品や靴を、湖南省や四川省で売りさばかなければならない苦労話を何度も聞いた。
危機に強い一党独裁体制
それでも、国内の売り上げは国外の巨大市場に比べればごく僅か。関係者の多くは、アメリカ市場の回復には何年もかかり、しかも以前の水準には2度と戻らないだろうと感じている。そして中国市場が一定の規模に達するまでにも、長い時間がかかるだろうと。
「金融危機の前でさえ、アメリカ以外の市場を開拓する必要性は感じていた」と、ナイン・ウエストやコーチの靴の多くを生産する華堅集団のアラン・ラム副部長は言う。「だが、中国市場が国内産業を支えるほど大きくなるには、5年か8年はかかるだろう」
中国の消費者がアメリカの消費者と肩を並べるようになるまでには、おそらくもっと長い時間がかかる。中国人の所得はアメリカ人のざっと10分の1。個人消費の総額はアメリカの12兆謖に対し1兆7000億ドル(07年)ほど。