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中国の台頭は怖くない
中国が世界経済秩序に挑戦する措置を連発しているが、その大部分はアメリカにとっても歓迎すべきものだ
バラク・オバマ米大統領がやっと新しい駐中国大使を選んだ。内定したユタ州のジョン・ハンツマン知事は、2012年の大統領選で共和党から出馬が取り沙汰されていた人物。おかげでほとんどのメディアは内政への影響ばかりを報じている。こうした近視眼的な報道は、ハンツマンが世界で最も重要な2国間関係の最前線に立つ役職に就いたという事実を見落としている。
オバマ政権がその布陣を整える間、中国はぼんやり構えていたわけではない。中国はこの2カ月間、アメリカ主導の経済・金融秩序への挑戦とも取れる措置を次々と取ってきた。
まず温家宝(ウェン・チアパオ)首相が3月13日、記者会見でアメリカの財政政策に対する懸念を表明。3月23日には周小川(チョウ・シアオチュアン)中国人民銀行(中央銀行)総裁がドルを基軸通貨とする国際通貨体制を批判し、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)に倣った「超主権準備通貨」 の創設を訴えた。4月の金融サミット(G20)は、景気対策として最大2500億謖分をSDRの形で加盟国に配分することで合意。中国の目標が1歩近づいたかに見えた。
また中国がこの5年間で金の保有量を2倍に増やしたことについて、フィナンシャル・タイムズ紙はドルから距離を置く姿勢の表れだと報じた。
「1カ月で10年分の政策」
さらに中国人民銀行は人民元の世界的な流通を促進する狙いから、ベラルーシやマレーシア、アルゼンチンなどと総額6500億人民元(約950億ドル)の2国間通貨スワップ(交換)協定を締結。中国はASEAN(東南アジア諸国連合)に日中韓が加わったASEANプラス3内での通貨スワップ協定であるチェンマイ・イニシアチブ拡大を支持しているし、ブラジルとの間でも、ドルのほか人民元やレアルで2国間貿易を決済する話し合いの準備を始めたという。
こうした動きにアメリカは神経をとがらせ始めている。下院議員のマーク・カーク(共和党)は「中国はアメリカのクレジットカード役をやめてしまった」と述べ、エコノミストのヌリール・ルビーニはワシントン・ポスト紙に「(中国は)1カ月で過去10年分を超える措置を取った」と語った。
ただ、オバマとハンツマンが中国の動きを警戒する必要は必ずしもない。確かに長期的に見れば、中国の相対的な国力と影響力はアメリカに近づくだろう。だが現在の中国のGDP(国内総生産)はアメリカの半分以下で、追い付くにはまだ時間がかかる。
短期的に見ても、中国の動きは穏当なものだ。しばらくはドルが基軸通貨であることは中国政府も認めているし、ドルで取引されている資産や商品が数兆ドル規模であることを考えれば、人民元の通貨スワップは微々たるものだ。
誇張されているニュースもある。中国の金保有量は2倍に増えたが、同じ時期に中国の外貨準備高は10倍増え、金が占める割合は2%に落ちた。中国政府は明らかに金への依存を減らそうとしている。
オバマは頭の切り替えを
ではなぜ中国の行動が騒がれるのか。過去20年間アメリカは文句なしに世界の覇権国だったし、その前の40年間も自由主義国家のリーダーだった。アメリカの学者や政治家は、重要な政策決定がすべてワシントン経由で決まることに慣れてしまい、他国が指導力を発揮することに戸惑っているにすぎない。
中国の最近の行動のほとんどはアメリカにとって脅威ではないし、環太平洋諸国の経済を後押しする限りにおいてむしろ世界に貢献している。オバマとハンツマンは頭を切り替えて中国の台頭を受け入れ、アメリカの中核的利益を脅かすものを除いてその政策面でのイニシアチブを歓迎すべきだ。
そうすることができれば、互いを不信の目で見るのではなく、共通の利益を目指して前進する米中関係がつくれるだろう。
[2009年6月 3日号掲載]