最新記事

サブプライム損失でシティ巨額赤字

金融危機クロニクル

リーマンショックから1年、
崩壊の軌跡と真因を検証する

2009.09.10

ニューストピックス

サブプライム損失でシティ巨額赤字

市場予想をはるかに上回る巨額損失が暗示する景気と金融、恐怖のシナリオ

2009年9月10日(木)12時11分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 米銀最大手、シティグループのシンボルは傘。その傘が、信用不安の嵐でぼろぼろになっている。今はシティの投資家たちが濡れている程度だが、アナリストたちは、それが経済全体に洪水を引き起こすのではないかと恐れはじめている。

 1月15日に発表されたシティの07年10~12月期決算。悪いことは、予想されていた。昨年シティはすでに、サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅融資)と買収ファンド向けのハイリスクな貸し出しで巨額の評価損を計上。アラブ首長国連邦の政府系ファンド、アブダビ投資庁から75億ドルの出資を仰いでいる。CEO(最高経営責任者)のチャールズ・プリンスは昨年11月、辞任に追い込まれた。

 だが先週の決算は、予想よりはるかに悪い内容だった。サブプライムローン関連証券の181億ドルにのぼる評価損がたたり、最終赤字は98億3000万ドルに達した。新CEOのビクラム・パンディットは損失をふくらませた二つの要因を「サブプライムローン関連証券の大きな評価損と実現損、そして消費者ローンの大幅な信用コスト増だ」と語り、この結果は「とうてい容認しがたい」と断じた。

 シティは資本増強のため、一連の対策を発表した。まず、投資家からさらに125億ドルの資本を調達する。うち68億8000万ドルは、シンガポール政府投資公社が出資する。また、昨年8月から株価が半値になって大損している投資家をむち打つように、四半期の配当を40%カット。これで年間44億ドルのコスト削減になる。

 サブプライム関連の損失は、巨額ではあっても予想されていた。だが、それ以外の損失は市場が予期していなかったもので、不安心理をいっそうあおることになった。

あらゆるローンが腐り始めた

 通常、景気減速で特定の債権が不良債権化すると、他の債権も同じ道をたどることが多い。ここ数週間、アメリカでは学生ローン、自動車ローン、クレジットカードなどの延滞率が上昇している。富裕層が相手のカード会社アメリカン・エキスプレスさえ、貸倒引当金を積み増した。

 シティの10~12月期の消費者ローン貸倒引当金は、前年同期の1億2700万ドルから33億1000万ドルに膨張。大半を占める有価証券の評価損も含めた信用コストは全体で54億ドルに達した。市場はこれが、米経済の70%を担う個人消費が弱っている兆候ではないかと懸念をつのらせている。

 先週はシティの決算以外にも、米経済が景気後退に近づいていることを示すニュースが相次いだ。ベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長は、議会証言で財政出動を支持。先行きに危機感をにじませた。07年12月の小売売上高は前月比0.4%減。1月18日には、ジョージ・W・ブッシュ大統領が景気刺激策を発表した。

 すべてを考え合わせると、景気後退懸念は強まるばかりだ。ダウ工業株30種平均は先週だけで4%下落し、年初来の下落率は8.8%に達した。シティの株価は24ドルと、99年以来の安値圏にある。

 個人消費の不振によるアメリカの景気後退はもちろん、世界経済にとってもマイナスだ。だがシティの業績悪化は、世界経済により大きな影響を与えかねないリスクをはらんでいる。

 シティの損失はあまりに大きく、「今やアメリカは深刻な金融システム危機のリスクをかかえている」と、ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授(経済学)は言う。「金融機関の損失が、サブプライムから優良顧客向けローン、クレジットカード、商業不動産向けローンなど」へと広がるにつれ、リスクは高まるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税対策パッケージ決定、中小企業の多角化など支援=

ワールド

米財務長官、韓国との貿易交渉を「非常に成功した」と

ビジネス

6月に米LNG会合、日韓のアラスカ計画支持表明を期

ビジネス

中国はさらなる不動産対策が必要、景気刺激策の余地あ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 9
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 10
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中