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『フォーリング・ダウン』
社会告発をねらったはずが、ただのプッツン男に
このサイコスリラーは社会問題を巧みに突いて話題をさらった。肝心のメッセージははっきりしないが、どうやら白人中流層の被害妄想にアピールしたいらしい。
マイケル・ダグラス扮する主人公のDフェンスは、ミサイル工場の元従業員。失業し、家庭生活も破綻した彼が、ロサンゼルスの渋滞に巻き込まれたのが運の尽き。車を乗り捨て、行き当たりばったりに暴力を爆発させる。
狂気に陥るまでの過程がきちんと描かれていれば、少しは感情移入できたかもしれない。だがDフェンスは、どう見てもただの「プッツン男」。韓国系移民の店で両替を断られただけでキレてしまう。なぜそんな男に共感しなければならないのか。
ジョエル・シューマカー監督はDフェンスの犠牲者をたちの悪い人間に仕立てることで、この問題をあっさり解決している。例えばゲイに偏見を持つ、ネオナチばりの人種差別主義者。彼がDフェンスに殺される場面で、観客は歓声を上げなければいけないらしい。
この作品は二枚舌でお説教を垂れる映画である。差別や暴力を厳かに告発する一方で、白人の被害妄想を巧みにあおる。駄作と片付けるのは簡単だが、社会派を気取っているぶん始末が悪い。
[1993年7月21日号掲載]