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政権交代をかけた総選挙が迫っている 混迷するニッポン政治の出口は
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近く行われる総選挙目当てに麻生が寄せ集めた守旧派と世襲議員が幅を利かす「経済無策」内閣の評判
日本を取り巻く現状は厳しい。経済は景気後退の危機に瀕し、消費者の購買意欲はここ数年で最低レベルに落ち込んでいる。高齢化は進み、人口は減る一方だ。
突然退任した福田康夫前首相の後任として9月24日、麻生太郎新首相(68)が誕生した。山積する課題を前に、明確な経済対策や外交戦略を打ち出し、能力第一主義で組閣にあたるだろうと、麻生に期待したくなるのも無理はない。
だがそう思うのはまちがいだ。経済に関して麻生はあまり多く発言していないし、財政再建よりは当面の景気対策を優先する姿勢を示している。閣僚には過去に改革に抵抗してきた人々も重用。日本の戦争の歴史の見直しを主張する強硬な保守派もいる。
これには理由がありそうだ。就任したばかりの麻生だが、近いうちの解散・総選挙は避けられない。参議院で多数を占める野党・民主党は政権奪取をめざして奮戦するとみられ、麻生は有権者の支持を早急に取りつけなければ、首相の座を追われかねない。
旧来の支持層にすり寄る
それゆえの迎合だ。BNPパリバ証券東京支店のチーフストラテジスト島本幸治は、中小企業や漁業従事者への支援など麻生が掲げる経済政策は「旧来の自民党支持者に訴えるため」だと言う。景気低迷から脱却しようと、公共事業に巨費を投じた90年代に逆戻りする動きだと危惧する見方もある。
この手法はもちろん効果をあげず、巨額の負債を残しただけだった。現時点でGDP(国民総生産)の1・7倍にものぼる財政赤字を考えれば、大したバラマキもできないだろうという声もある。
だがこれまでのところ、麻生はそれ以外に目立った対策を示していない。景気刺激策として証券優遇税制や設備投資の減税を提唱したぐらいだ。日本総研マクロ経済研究センターの岡田哲郎所長は、大した解決策にはならず、長期的にはよい効果を及ぼさないと指摘する。本当に必要なのは、麻生が興味を示していない分野----自由貿易協定や農業改革などの抜本的な政策だ、と岡田は言う。
明確なビジョンが示されないなか、専門家は閣僚人事から麻生の意図を探ろうとするが、ここにも希望は見いだせなさそうだ。ニューヨーク大学経営大学院のエドワード・リンカーン教授は、麻生と数人の閣僚は、主要な経済問題をめぐって意見が真っ向から対立していることを指摘する。これは、麻生が選挙対策に主眼を置いて閣僚を選任したことを意味している。
リンカーンはまた麻生自身を含む多くの閣僚が、かつて自民党の有力派閥を率いた政治家の子や孫であることに驚きを隠せない。18人中4人は父親か祖父が首相経験者で、10人が自民党の世襲議員だ。
麻生はこうした派閥政治家が票を集めると踏んでいるのかもしれないが、それは危険な戦略だ。閣僚たちは改革を進めるタイプではなく、外交問題さえ引き起こしかねない。たとえば財務相兼金融担当相の中川昭一は保守色が強く、日本の核抑止力も検討すべきだとする数少ない政治家の一人だ。
「マンガ貴族」なぜ人気?
それでも、麻生は自らの人気が選挙戦で有利に働くと考えているかもしれない。「マンガ好きの貴族」という彼のイメージは、なぜか多くの国民を引きつけている。共同通信社の最近の世論調査では麻生の支持率は54%で、民主党の小沢一郎代表を25ポイント上回った。
麻生が次の総選挙でなんとか自民党に勝利をもたらしたとしても、いわゆる「ねじれ国会」は変わらない。これにはサラブレッドの麻生は我慢ならないかもしれない。
「祖父や父はなんでも思いどおりにやってきたのに、自分は小沢と相談しなければ何もできないとしたら」と、ウェブサイト「ジャパン・エコノミー・ニュース」を編集するケン・ワースリーは言う。「1週間で嫌になるだろう」
さすがにそれよりは長く政権にとどまるはずだ。ただどれくらい長くかはまったく見通せない。
[2008年10月 8日号掲載]