最新記事

『プリズン・ブレイク』 何度脱獄すれば気がすむの?

海外ドラマ天国!

映画を超える黄金時代を迎えた
海外テレビドラマの世界へ

2009.07.17

ニューストピックス

『プリズン・ブレイク』 何度脱獄すれば気がすむの?

荒唐無稽なシーズン3は無理やりな展開に頭が痛くなる

2009年7月17日(金)12時40分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

 『プリズン・ブレイク』のシーズン3の舞台は再び監獄に戻る。今回はパナマにあるソーナとよばれる特殊な刑務所だ。

 ソーナは巨大な闘技場を思わせる。囚人たちの戦いは暴動というより、ローマの剣闘士の対決のようだ。囚人たちの国籍は27の国々にわたり、ある登場人物いわく「ここにいるのは、極悪人のなかの極悪人」だ。

 そう、ソーナはマイケル・スコフィールド(ウェントワース・ミラー)がシーズン1で入っていた刑務所よりも強烈な場所だ。だが流れる血や臓物の量が増えても、前に見た感じはぬぐえない。

 マイケルに会いに来た兄のリンカーン・バローズ(ドミニク・パーセル)は、檻の向こうから弟を見つめ、「俺はまちがった側にいるような気がする」と言う。マイケルはリンカーンが自分を脱獄させてくれるかどうかを知りたがる。「怖いか?」と、リンカーンは尋ねる。「俺がここから出してやるよ」

 リンカーンはまちがった側にいるというより、このシリーズに出続けていること自体がまちがいだろう。

 『プリズン・ブレイク』のシーズン1は素晴らしかった。『LOST』に匹敵する緊張感にあふれていた。無実の罪で重警備刑務所に入れられた兄が死刑になる前に、弟が計画的に刑務所に入所し一緒に脱獄をはかるという設定は完璧。だがマイケル、リンカーンやそのほかの囚人が早々と脱獄したことで、脚本家は墓穴を掘った。

話の構成に無理がある

 シーズン2は世界を股にかけた逃亡劇で『逃亡者』のまねにみえた。シーズン1ほど独創的ではなかったものの、まだドラマは魅力的で興味が持続した。

 だが今、マイケルが再び刑務所に戻るとなると、物語の構造自体がばかばかしくみえる。リンカーンの息子とマイケルの恋人が誘拐され、誘拐犯は無事に返す条件としてマイケルに仲間の囚人とともに脱獄するよう要求する、という展開になる。

 前に聞いたような話だ。シーズン1でマイケルは兄と2人でアメリカの刑務所からの脱獄を計画した。『LOST』も荒唐無稽すぎる展開になったが、前に使った思いつきをリサイクルすることはなかった。

 ソーナで戦いが始まると、シーズン1の刑務所がいかに恐ろしく見えたかを思い出すばかり。新しい登場人物は次の見せ場までのつなぎに登場するだけで興味をそそらない。なかでもマイケルとともに脱獄する謎めいた囚人ジェームズ・ウィスラー(クリス・バンス)は、悪人なのか善人なのかわからない(ひょっとしたら、脚本家がまだ決めていないのかもしれない)。

あの超有名作家も混乱

 シーズン3の結末にはそれまでの話をひっくり返す驚きがあるが、すべての登場人物が無理やり操られているようで、むしろどうでもよくなってくる。シリーズのファンである作家のスティーブン・キングも「どうなっているのかまったくわからない」とコラムに書いている。

 残念ながらこのドラマの数々の謎は、舞台がアメリカに戻るシーズン4になってもいっこうに明らかになる気配はない。驚いたことに、シーズン3で死んだはずのキャラクターが戻ってくる。首を切られるという衝撃的な死だったにもかかわらず。

 頭が痛くなった? みんな同じだ。「シーズン4の『刑務所』は寓意的なもの」と、刑務所の医師サラを演じたサラ・キャリーズはインタビューで語っている。「誰もが逃れられない自分の人生の何かと戦っている」

 本当に? マイケルはそろそろ『プリズン・ブレイク』からの脱出を考えたほうがいいかもしれない。

[2008年12月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中