最新記事

北京の環境浄化作戦を続行せよ

中国の真実

建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像

2009.04.24

ニューストピックス

北京の環境浄化作戦を続行せよ

五輪期間中の大気汚染対策で当局も市民も効果を実感。さらなる交通規制やエコカー導入の取り組みが始まった

2009年4月24日(金)19時04分
メリンダ・リウ(北京支局長)

北京市は08年10月から半年間の交通規制実験を実施
Jason Lee-Reuters


 08年夏の北京五輪で不安視された問題の一つは、中国政府の大気汚染改善策が効果をあげるかどうかだった。だが、開幕後数日間はどんよりとした空が続いたものの、その後は太陽が姿を現し、疑念の雲は無事に晴れた。

 そして今、新たな疑問が浮上している。中国政府は今後も環境対策に力を入れるかどうかだ。

 現時点では、期待してもよさそうだ。中国指導部と北京市民は、自動車の使用制限などの環境効果に興奮を隠せない。一部の規制をこれからも続けるべきだという声は、一般市民からも上がっている。中国のエコカー開発プロジェクトの父と呼ばれる万鋼(ワン・カン)科学技術相は言う。「オリンピックはいい教訓になった。環境の改善を求める機運が国中で高まっている」

 新しい大気汚染対策の目玉は、北京で登録されている350万台の自動車への規制だ。当局は発言力を増した中流層の反発を懸念して、これまで恒久的な自家用車の交通規制には及び腰だった。

公共交通網の改善も進む

 だが、五輪を契機に社会のムードは一変。北京市当局は、車の通行量を200万台分削減した五輪とパラリンピック期間中の対策を参考に、10月11日から半年間の交通規制実験を開始した。

 新たな規制では、公用車の3分の1が削減され、公用車と一般車両の5分の1が、週末を除く週1日、使用を禁じられる。二酸化炭素(CO2)排出基準を超える車両数十万台の段階的な削減も、09年10月までに開始する予定だ。

 中央政府も近く全国10都市で、公共交通用のエコカー1000台を導入する。北京では五輪期間中、燃料電池自動車23台と電気自動車470台、ハイブリッド車102台が大会関係の公用車として使われ、ドライバーの好評を得た。

 地方当局者や一般市民もエコカーを歓迎しはじめたと、万は言う。「五輪は新しい技術の見本市だった。旧型テレビの所有者が、液晶テレビの画面を見れば、買い替える気になる」

 五輪をきっかけに、公共交通網も改善された。北京では新しい地下鉄が開通し、空港にアクセスしやすくなった。バス料金は値下げされ、自家用車に代わる足として公共交通の利用も増えた。

 その結果、大気汚染や渋滞が改善されたため、最新の世論調査では交通規制を支持する声が3分の2を超えた。今回の新規制の実施で北京の車の交通量は1日80万台減り、市民は週1日の割合で公共交通の利用を義務づけられる。

 もちろん、大気汚染との戦いはこれからが本番だ。五輪期間中は北京周辺で建設工事の中断や工場の操業制限・停止が行われたが、こうした対策はあくまで一時的なもの。今後数カ月間で、汚れた空気が戻ってくる可能性は高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中