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中国の真実
建国60周年を迎える巨大国家の
変わりゆく実像
中国人を襲う「飽食の時代」
危ないのは汚染された食品だけではない。豊かになったライフスタイルが国民の健康を脅かしている
中国は国民の寿命を延ばすことに成功した。現在の平均寿命は73歳。あと数歳で先進国レベルだ。一方で、新たな戦いも始まった。こってりした食事、タバコ、長時間のテレビ観賞。経済成長が可能にしたこれらのライフスタイルが年々、死者を増やしつつある。
イギリスの医学専門誌ランセットに掲載された研究報告は、中国が予防医学に力を入れないかぎり、奇跡的な高度成長が「健康と経済の時限爆弾」により破綻しかねないと警告している。
一人っ子政策によって急速に高齢化した中国は、高血圧や心臓病、脳卒中(現在の中国人の死因のトップ)といった慢性疾患をかかえる長寿の老人のために、財源を見つける必要に迫られている。報告によると、豊かな先進国に特有の疾患で死ぬ中国人が、73年の47%から05年には75%に増えた。
皮肉にも、健康を悪化させた原因は食生活の改善だ。肉の摂取量が増える一方、果物や野菜は減少。報告の共同執筆者である中南大学の肖水源教授は、中国の食事には脂っこい食べ物が増えたと説明する。農村の食生活では、02年までの20年間で脂肪分の摂取量が2倍になった(都会は25%増)。
「肉の消費量が最も多いのは都市部だが、激変したのは地方の食生活だ」と、北京でWHO(世界保健機関)の健康政策制度チームを率いるセーラ・バーバーは言う。
収入に比例する喫煙率
胃癌、心臓病、死因1位の脳卒中のリスクを高める塩分も深刻な問題だ。バーバーによると中国人成人男性の1日の塩分摂取量は12グラムで、ガイドラインの2倍にあたる。高血圧症患者が成人男性の18%を占め、全国で1億7700万人にのぼるのも不思議ではない。
塩分の大半は調味料のしょうゆに含まれるが、加工食品にも塩分と糖分がたっぷり入っている。報告の主執筆者で、中国疾病対策予防センター副所長の楊功煥によると、1年間の高血圧の発症数は70年には100万人だったが、現在は700万人。加工食品が普及したせいで糖尿病も増加中だ。
体を動かす機会も減った。定期的に運動する中国人は3分の1だけで、長時間テレビを見る人が多いと昨年、楊は警告。89年には成人の4分の3近くが体を動かす仕事に就いていたが、06年には半分になったとバーバーも指摘する。
タバコも大きな死亡要因だ。欧米諸国とは異なり、中国では「喫煙率は収入に比例する」とバーバーは言う。中国では男性の60%がタバコを吸う(世界の喫煙人口の3分の1)。中国人にとってタバコはビジネスの潤滑油であり、儀礼的なギフト。地方では、宴会席にあらかじめ置かれていたりする。
中国で消費されるタバコは年間約2兆本。一方で中国は、160カ国が参加するWHOのタバコ規制枠組み条約を批准している。条約に従い、09年1月からパッケージに健康被害の警告を表示し、11年にはタバコ企業の広告と資金提供を禁止することになっている。
だが、担当省の再編成が08年3月から延期されているため、施行に向けた作業は滞ったまま。ランセットの報告は、条約の協定を完全実施するよう警告している。