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山下哲也(ギャルソン)
カフェの本場でめざす究極のおもてなし
黒のタキシードとパリッとした白のエプロンに身を包み、山下哲也(34)はパリにある「カフェ・ド・フロール」のテーブルの間を軽やかにぬって給仕に就く。
創業1890年のこの老舗カフェは長年、ピカソやヘミングウェイなど著名人に愛されてきた。常連客だった哲学者サルトルは、「綱渡りの曲芸師のように大胆にトレイを操る」ギャルソンを称賛したものだ(トレイの重さは6キロになることも)。
ギャルソンの報酬は歩合とチップのみ。サービスは磨かれるが、精神的にも肉体的にも競争はきつい。「まるでスポーツだ」と、山下は語る。
東京・表参道のカフェ・ド・フロール(現在は閉店)で仕事を覚えた山下はやがて「本場」に憧れるようになった。だが、パリの店では白人のフランス人しか雇わないとも言われた。当時の山下はフランス語も話せなかったという。渡仏を果たしたのは02年。語学を学びながら、9カ月間、毎週店に通ってチャンスをつかんだ。批判も耳に入るが(「どうして日本人がこの店で働いているんだ?」)、山下は理解を示す。「フランスは保守的だから。エッフェル塔だって最初は評判が悪かった」
現在は正規スタッフ20人のうちの1人。日本でカフェを出せば儲かるといわれるが、そこは根っからの曲芸師のこと、ちょっとやそっとのことでは揺らがない。「それじゃ、簡単すぎる」と、山下は完璧なフランス語で答えてみせた。
[2007年10月17日号掲載]