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オバマのアメリカ
チェンジを掲げた大統領は
激震の超大国をどこへ導くのか
倫理潔癖症が生む「空っぽ」オバマ政権
過去の納税もれ等の細かすぎる身元調査のせいで300余りの高官ポストが空席のまま。政治の停滞を招く人事クライシスの驚くべき実態とは
アメリカの公立学校を改革し、連邦政府の教育予算を大幅に増額したいと、バラク・オバマ大統領は言う。しかし数日前にアーン・ダンカン教育長官のオフィスに本誌が電話したとき、2分間くらい誰も電話に出なかった。ようやく受話器を取った女性は言い訳がましく言った。「空席のポストだらけなもので」
教育省だけではない。経済危機への対応に追われる財務省では、ティモシー・ガイトナー長官を支える十数の主要ポストがまだ埋まっていない。ブッシュ前政権から残留した高官3人と上院の承認を経ずに就任できる役職の幹部たちでどうにか切り回しているのが実情だ。これでは、ガイトナーが保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の高額ボーナス問題を把握できていなかったのも無理はない。
4月2日にロンドンで開かれる金融サミット(G20)の準備を進めているガス・オドネル英内閣府官房長官は3月初めに、米財務省とうまく連絡が取れないと不満をもらした。「(電話しても)誰もいない。連絡を取るのが本当に大変だ」というオドネルのオフレコ発言がリークされている。
オバマ政権の高官になりたい人がいないわけではない。3300のポストに約30万人の採用希望者が殺到している。しかしワシントン・ポスト紙によれば、上院の承認を必要とする373の役職のうちですでに埋まっているのは43だけ。厳格を極める審査プロセスのせいで、普通であれば十分に資格を満たすはずの候補者が排除されたり辞退したりしている。
その最たる例が、新政権で医療保険改革を任されるはずだった上院民主党の重鎮トマス・ダシュル前院内総務だ。厚生長官に指名されていたが、約14万ドルの税金未納が発覚して指名を辞退した。
ホワイトハウスによれば、上院の承認プロセスが滞っているために仕事を始められない役職者は数十人にのぼるという。とくに問題なのは、重要課題をかかえる財務省だ。消息筋(微妙な内容であることを理由に匿名を希望)によると、上院財政委員会は税金問題を理由に複数の財務省高官候補に水面下でノーを突きつけたという。
身元調査にこだわる悪習
「クリーンな政府」を求める有権者の声を意識するあまり経済危機対策が遅れるのは本末転倒だが、この図式は今に始まったことではない。改革者の情熱を実践する役回りが法律家にゆだねられると、えてしてこういう結果になる。
政府高官候補の身元調査用にホワイトハウスが用意しているチェックリストは、今や100ページ近くにふくらんでいる(しかもこれとは別に、安全保障上の入念な身元調査がある)。ホワイトハウスの弁護士による面接では、きわめて私生活に立ち入ったことを根掘り葉掘り聞かれる場合もある。ダシュルは、慈善団体に寄付を行ったことを証明するために30ドルの領収書の提出を求められた。
身元調査対策に弁護士や会計士を雇えば莫大な金がかかる。オバマ政権の国家安全保障部門の高官に指名されたある大学教授は、そのために新たにローンを組む羽目になったと本誌に語っている。ブッシュ政権から留任したロバート・ゲーツ国防長官は06年の就任時に、身元調査対策に約4万ドルを費やした。ドナルド・ラムズフェルド前国防長官の場合は、25万ドルを超す出費だった。