コラム

「社会的距離」を無視するトランプが、距離を取りたい相手(パックン)

2020年03月28日(土)14時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Trumped by the Truth / ©2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<感染拡大中にもかかわらず大規模な政治集会で不特定多数と濃厚接触――予防意識のかけらもないトランプでは国の感染対策が遅れるのも当然>

新型コロナウイルス流行中に新しい流行語も登場した。Social distancing(社会的距離)だ。飛沫感染や接触感染を予防するために、他人と一定の距離を置く戦略を指す。日本で広がっているイベント中止や学校閉鎖、時差出勤やテレワークなどの制度も、個人の日常的な心掛けや行動もそれに当たる。分かりやすいのは握手に代わる挨拶だ。足と足をタッチさせる「武漢シェイク」も、合掌する「ナマステポーズ」も、肘を軽くぶつけ合う「エルボーバンプ」も、どれも社会的距離戦略として有効。確かに、肘に病原体が付いても、肘を目や口に入れることはほぼ不可能だ。ぜひ、試してみてください。

でも、ドナルド・トランプ米大統領がやっているのは social distancing と言えなさそう。感染拡大中に1万人規模の政治集会を開いた。自分の所有するリゾートで、息子の恋人のための大規模誕生会も開いた。そしてその誕生会にも、その前の食事会にも、密閉空間である大統領専用機エアフォースワンの中にも感染者や感染者との濃厚接触者がいたことが後に発覚しても、同席していたトランプは自粛や隔離もせずに普段どおりに活動を続けていた。予防のディスタンスというより、無謀なスタンスだ。

だがトランプは不特定多数と近距離で接触する一方、あるものとかなり距離を取る。truth(真実)と science(科学)だ。

「俺はニューヨーク州で最高の野球選手だった」や「温暖化は中国のでっち上げ」など、真実や科学と程遠い発言は昔から多かったが、コロナウイルスについては一層の誤報の連発だ。1月21日の「とてもアンダーコントロール(制御)されている」から始まり、「4月までには、温かくなって奇跡的に消えるはず」や「ワクチンはすぐできる」など、真実や科学だけではなく疾病対策の強化が急務のときに、責任や国益にも反する発言が目立つ。

ちなみに、インフルエンザに関しても「インフルエンザで人が死ぬ? そんなの知らなかった」と、無知をさらけ出している。だが、トランプのおじいさんはスペイン風邪という名のインフルエンザで亡くなっている。それも知らなかったのかな?

大統領がこんな姿勢だと、国の感染対策は遅れて当然だ。故に、想定どおりの結果になった。「今は感染者15人で、それも数日で0になる」とトランプが断言してから1カ月もたたないうちにアメリカ国内で感染者1万5219人、死者201人(編集部注:3月27日18時現在、感染者8万5689人、死者886人)になった。

今こそ真実や科学にこだわらないといけない。そこから離れることは「反社会的距離」だろう。

【ポイント】
I'VE ALWAYS PRACTICED SOCIAL DISTANCING!
「私はずっと社会的距離を取ってきた!」

<本誌2020年3月31日号掲載>

20200331issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story