コラム

「田舎のブタ」を自称する中学生の叫びが、中国で大きな話題に

2021年06月23日(水)20時18分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国「田舎のブタ」と「都会の白菜」(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<貧乏な「田舎のブタ」が、恵まれた「都会の白菜」に突き付けた挑戦状。だが実態はもっと複雑で...>

「我就是一只乡下来的土猪,也要立志去拱了大城市的白菜(俺は田舎から来た田舎ブタ。それでも大都会の白菜を押しのけようと決意した!)」

先日、中国のテレビ演説番組で大きな話題になった河北省・衡水中学の生徒、張錫峰(チャン・シーフォン)君の言葉だ。

衡水中学は主に農村出身の学生が学ぶ進学校で「大学受験工場」と呼ばれる。受験生たちは学校の寮に住み、朝5時半に起き、夜10時10分に寝る。食事とトイレも駆け足で時間を惜しみ、毎日十数時間勉強し続ける。

それほど必死に頑張るのは、ただ1つの目標──有名大学に合格し大都会に出て運命を変えるためだ。張君の「田舎ブタと大都会の白菜」という言葉は「ガマガエルが白鳥の肉を食べたがる」という中国のことわざと同じ意味がある。富と名声など大都会のエリート層しか属しないものを欲しがる、身分不相応な下層社会の貧困層をあざ笑う言葉だが、張君の自虐的な、それでも必死な決心は都会の人々をびっくりさせた。

もともと大きかった中国の都市と農村の格差は、過去40年以上に及ぶ経済発展の中でますます広がっている。田舎の子供たちが運命を変えたいなら、大学に合格して都会に行くしかない。

ただし、都会も今やそれほど豊かとは言えない。急速な経済発展後の景気停滞や米中貿易摩擦、新型コロナウイルスの流行は大都会にも影響を与え、深刻な「内卷」を起こしている。内卷(ネイジュアン、内巻き化・過密化)は新型コロナ以来、中国ではやっているネット用語の1つ。社会資源が限られた環境の中で、内部で発生した不条理な競争は特に若い世代の心身を疲弊させている。

この話にはどんでん返しがある。張君は演説で有名になった後、親の運転する高級外車に乗っているところを目撃されている。そもそも衡水中学は高額の学費で有名で、金持ちの農民の子供しか通えない。田舎ブタは貧乏人で、都会の白菜は金持ちなのか。張君にこの演説をさせたのは誰なのか。本当に格差に苦しむ貧しい農民のガス抜きではないのか──。

中国はあまりに複雑だ。

ポイント

醒醒、你不是土猪、我也不是白菜!
目を覚まして! あなたは田舎ブタじゃないし、私も白菜じゃない!

衡水中学
河北省南部の都市・衡水市にある寄宿制スーパー受験校。1951年創設。99年に浪人生と地域外からの受験生受け入れを始め、生徒数は1万人に。高級中学(日本の高校)に初級中学(日本の中学)も併設。浪人生の学費は年2万5000元(42万円)から。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、自動車関税の影響軽減へ 29日実施=米

ビジネス

アングル:欧州中小企業は対米投資に疑念、政策二転三

ワールド

カイロでのガザ停戦交渉に「大きな進展」=治安筋

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、週内の米指標に注目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 8
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story