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風刺画で読み解く中国の現実 Superpower Satire (CHINA)
政府系メディアの愛国編集長の正体は、ただのご都合主義者
Not Nationalism, But Opportunism / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<「環球時報」の編集長は「フリスビーをくわえて誇らし気に飼い主の元へ戻る犬」という、ずいぶん失礼なあだ名を付けられた>
中国の自由派は、人民日報傘下の「環球時報」編集長の胡錫進(フー・シーチン)を「胡叼盘」と呼んでいる。「叼盘(ティヤオパン)」とは、フリスビーをくわえ誇らし気に飼い主の元へ戻る犬のこと。胡は常に中国政府と共産党の意図を上手に「キャッチ」する。だから、こういうあだ名を付けられた。
ずいぶん失礼だが本人はそれほど気にしていない。むしろ誇りに思っているかもしれない。そもそも中国メディアは全て党の代弁者で、出世は政府や党の空気を読む能力次第だ。
環球時報の編集長として、胡は自ら「2人の主人を持っている」と主張している。1人は言うまでもなく党の権力者。もう1人は読者。人民日報は党の機関紙だが、環球時報は大衆向け新聞で、販売部数によって経営が左右される。人民日報のように党の言い分ばかりなら、つまらないし売れない。一方、許される範囲内で党の本音を大衆が分かる言葉に変え、それが売れるなら名声とカネを共に手に入れることができる。
香港デモを思い出してほしい。環球時報が「港独(香港独立)暴徒らは警察を攻撃し祖国を分裂させている」といったタイトルの記事で暴徒化したデモ隊の写真をたくさんネットに載せたおかげで、言論の自由を求める香港の若者たちは中国で「港独暴徒」として嫌われた。
最近もアメリカの黒人差別反対デモを、「見よ、香港の『美しい風景』が全米に広がっている」と評した。アメリカの下院議長が香港デモを「美しい光景」と言ったことへの当てこすりだ。
環球時報の記事は党の権力者の機嫌を取りつつ、中国国内で勢いを増すナショナリズムにも迎合する。その結果、環球時報は無名の新聞から1日200万部を発行する世界的メディアになった。胡編集長の手腕は「たいしたもの」だ。
「われわれの役割は政府と人民の意思疎通。しかも非常に成功してきた」「中国は容易ではない。複雑だ」と、胡は言う。確かに中国は容易ではない、しかしその複雑な中国で、機嫌取りが得意で空気を読むのが上手な胡はまるで水を得た魚のようだ。
彼の正体は民族主義者というより、民族主義をうまく利用しているご都合主義者だろう。
【ポイント】
環球時報
1993年創刊。中国共産党の機関紙・人民日報傘下のタブロイド紙。国際ニュース中心で英字紙Global Timesも発行。米政府によりアメリカ国内での活動を制限されている。
胡錫進
1960年北京生まれ。人民解放軍国防科技大学国際関係学部、北京外国語大学大学院卒。在学中に天安門事件に遭遇。人民日報に入りソ連特派員に。2005年から環球時報編集長。
<本誌2020年7月7日号掲載>
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2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)
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