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風刺画で読み解く中国の現実 Superpower Satire (CHINA)
中国美人女優の脱税摘発、政府の狙いは「一石十鳥」
Killing Many Birds with One Stone (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<国際的な美人女優ファン・ビンビンが消息不明になった事件の真相は、中国政府による巨額脱税の摘発――狙いは「見せしめ」だ>
ずっと消息不明だった中国の美人女優ファン・ビンビン(笵氷氷)は先日、脱税に対する8億8300万元(141億円)の罰金・追徴課税のニュース、そして一通の謝罪文と共に中国メディアに再登場した。
今年5月末、ファン・ビンビンは「陰陽合同(陰陽契約)」したと暴露され、急に表舞台から姿を消した。「陰陽合同」とは、同じ内容の契約について金額の違う2種類の契約書を作ることだ。目的はもちろん脱税。今回、表向きの契約書でファン・ビンビンの出演料は1000万元(1億6000万円)だったが、実際にもらったのは6000万元(9億6000万円)だった。
その上、ファン・ビンビンのマネジャーによる証拠隠滅も発覚。全て明らかな違法行為だが、「規定の日時までに罰金全額を支払えば刑事責任の追及なし」と、官製メディアが公言したことで、中国のネット世論は啞然とした。
02年、大女優である劉暁慶(リウ・シアオチン)は1400万元(2億2400万円)の脱税で有罪判決を受け、1年以上入獄した。どうしてファン・ビンビンの脱税額は2億4800万元(40億円)にも達したのに刑務所に行かなくて済むのか。
「刑法が改正されたからだ」と専門家は説明する。09年の新刑法によって、脱税の初犯の場合、きちんと罰金を払えば実刑を科さないことになった。しかし、これだとお金のない一般人は刑務所に行かなければならないが、有名人や富裕層は罰金で済むことになる。「法律の前では誰でも平等」というスローガンはただのスローガン。現実は地獄の沙汰もカネ次第なのだ。
有名人でも富裕層でも、中国でお金を稼ぎたいなら政府の意思に従わなければならない。今回、ファン・ビンビンへの巨額の罰金処分は、「ニワトリを殺してサルに見せる」ことが一番の目的だ。脱税した芸能人は今年中に自ら税務署へ出頭して不足分を納めよ、それなら罰金と法的責任は一切追及しない、と新華社通信の記事が呼び掛けた。
中国政府にすれば、この刑法によって巨額の税収と罰金で儲ける一方、有名人や富裕層をきちんと管理もできる。トリ1羽を殺せば、「一石二鳥」どころかたくさんのサルがお金を持ってくる、都合のいいやり方だ。
【ポイント】
劉暁慶
55年生まれ。75年映画デビュー。『芙蓉鎮』で金鶏賞最優秀主演女優賞を受賞し、国民的女優に。02年脱税で逮捕
ニワトリを殺してサルに見せる
「殺鶏嚇猴(シャーチーシエホウ)」。中国語のことわざで見せしめの処罰をすること
<本誌2018年10月23日号掲載>
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