コラム

トランプがもくろむ「最高『独裁』判所」(パックン)

2018年07月11日(水)17時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

「トランプの下での平等な正義」という文言にご満悦の様子 (c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<最高裁判事の人事で保守派を優勢にして、権力を集中させるのは独裁者のやり方>

アメリカ人はサッカー代表のメンバーは知らないのに、連邦最高裁判事の名前はほとんど言える。注目度の高さには理由がある。まず、最高裁は法の解釈で国民の生活に直接的な影響を与える。人種差別の禁止、人工妊娠中絶や同性婚の合法化、ジョージ・W・ブッシュ大統領の誕生などなど、歴史的な転換の多くは最高裁の判決によるものだ。

それに、最高裁判事9人の構成が面白い。大抵は、保守派とリベラル派に激しく分かれる。まあ、アメリカの家族もたいてい食卓に着いたらすぐ保守派とリベラル派に分かれて、ミートローフ越しの議論を広げるけど。

この数十年、5-4で保守派の判事が多かった。しかし2016年2月にその1人が亡くなり、バラク・オバマ大統領の指名権でリベラル派に数的優位をつくるチャンスが訪れた。ところが、野党・共和党が牛耳る上院は指名者を承認どころか審議もせず、政権が代わるまで1年近く先延ばしした。史上初の超ずるい作戦だが、結局、ドナルド・トランプ新大統領が指名した保守派の判事が就任。憲法や規範ではなく、保守派は保守派を保守しているようだ。

最高裁はそれから中絶反対、同性婚反対、労働組合反対の保守派が喜ぶ判決を下した。イスラム圏からの入国禁止令や不法入国者の無期限の収監を支持したりと、強硬派のトランプ政権を喜ばせた。

「仕方がない。文句があれば選挙で民意を示せばいい」と指摘されそう。だが、それには問題がいくつかある。そもそも選挙で選ばれたオバマの指名はないがしろにされている。そして、最近の選挙では民意が届いてさえいない。16年の大統領選でも上院選でも全国の得票率が高いのは民主党なのに、制度の特徴により共和党が「勝った」ことになった。さらに今の最高裁が政治目的の選挙区区割りや、投票しなかった有権者の選挙登録削除を許したことで、保守派・共和党の優勢に拍車が掛かる。

先日、判事の1人が7月末で退任することを表明し、トランプがまた後任を指名することになった。危険信号がともる瞬間だ。最高裁とタッグを組み、一党に権力を集中させるのは独裁者のやり方。Supreme Leader(最高指導者)は独裁者の別称だが、風刺画でSupreme Court(最高裁判所)を「最高独裁判所」に書き換えているトランプは、ご満悦の様子だね。

【ポイント】
米最高裁判所の正面には Equal Justice Under Law(法の下での平等な正義)とあるが、ここでは Equal Justice Under Trump(トランプの下での平等な正義)になっている

<本誌2018年7月17日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、A350の大型派生機を現在も検討=民間機

ビジネス

ヤム・チャイナ、KFC・ピザハット積極出店・収益性

ビジネス

午前のドル155円前半、一時9カ月半ぶり高値 円安

ワールド

中ロ首相が会談、エネルギー・農業分野で協力深化の用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story