コラム

まるで「移民の子さらい」、トランプに注意!(パックン)

2018年06月29日(金)19時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<不法移民の摘発を強化したトランプ政権によって、6週間で約2000人の親子が引き離された。子供が人身売買組織に渡されたり、親だけが強制送還されたりするケースも>

今回の風刺画はたいして面白くない。逆に怖いと言っていい。それもそうだ。怖くなって当然のような事実を風刺しているから。

「熊出没注意!」というような標識に描かれているのはメキシコ国境を越える3人家族。命からがらで最悪の境遇から逃げ出したのか、必死に走っている様子だ。そこで後ろから小さな子供をさらっているのは何だか恐ろしいモンスター......ではなく、ドナルド・トランプ米大統領だ。

日本ではあまり報道されていないが、トランプ政権の移民政策はこの風刺画のとおりの醜態を生み出してきた。歴代政権では、不法移民が捕まったら移民局で審査され、入国が認められるかどうかの判決を受けた。積極的に取り締まって強制送還するのは、国内で犯罪を起こした人が主だった。

一方、トランプ政権は「国に入ること自体が犯罪」という見解から、不法入国した全員を犯罪者扱いすることに切り替えた。入国者は刑事裁判にかけられることになるから、捕まった後は司法省の留置場に入れられる。しかし、移民局の施設と違って子供は留置場に入れられないので、親とは別の施設で「保護」される。保護といっても、事実上の収監だ。

政府発表によると、6週間で約2000人が親から引き離された。つまり1日に約47人。赤ちゃんも、英語がしゃべれない子もだ。6月には1日60人にペースアップした。「お子さんをお風呂に入れてきます」と職員が親をだまし、そのまま子供を連行した例もあるという。施設が足りないため、テントに暮らしている子供もいる。それも気温が40度を超えるテキサスの砂漠の中だ。せめてトランプホテルに泊めてあげればいいのに。

しかも隔離するシステムは働いていても、子供を管理するシステムが機能していないようだ。留置場から出た親が問い合わせても、子供の居場所が分からないこともある。政府が引き取り人の確認を怠って人身売買組織に子供を渡したケースもあると、PBS(公共テレビ放送網)は報じた。子供がアメリカで保護されたまま、強制送還された親もいる。

こんな制度は国際法違反だと指摘されていたが、6月20日にトランプは突然、方針転換。家族を一緒に収容することを命じる大統領令に署名した。これには娘イバンカの働き掛けがあったと言われる。自分の子供にはべったりなのに......。

ところで、「なんで先日の米朝首脳会談で北朝鮮の人権問題を取り上げなかったのか」という疑問が挙がっていたが、その答えがやっと分かった。トランプは金正恩(キム・ジョンウン)に突っ込まれたくなかったからだろう。

<本誌2018年7月3日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マネタリーベース3月は前年比3.1%減、緩やかな減

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story