コラム

保守派コメンテーターの、見当違いな銃乱射対策のススメ(パックン)

2018年04月12日(木)17時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

一部の共和党員の間ではこんな非常識な考え方が「本物のリーダー」の証しとして好まれる (c) 2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<銃規制の強化を呼び掛ける高校生たちの活動を批判する保守派の人々。それにしても「蘇生法を学べ」とは見当違いも甚だしい>

保守派コメンテーターのリック・サントラムはいろいろな「元」の肩書を持っている。元上院議員で、共和党の元大統領選予備選候補。そして、元失言王なのだ。

イスラムとの戦いは「アメリカの基本的な価値観だ」と、十字軍を肯定した。「他人のお金で黒人の人生を良くしたくない」と、人種の概念から福祉制度を批判した。トランスジェンダーの権利保護は「危険」と反対。「同性愛の容認は重婚、近親相姦、不倫を容認するも同然だ......成人と児童の恋愛、人と犬の恋愛と一緒だ」と主張した。どれも天才的な失言だ!

しかし最近は「失言王」と言ったら、もちろんトランプ米大統領が先に挙がる。よほど悔しかったのか、タイトル奪還を狙ったのか、サントラムは先日また強烈な失言を放った。

17人が犠牲になったフロリダ州の高校銃乱射事件後、残された生徒を中心に銃規制の強化を呼び掛ける運動が活発化している。その一環で3月、首都ワシントンで約80万人が参加した行進をはじめ、東京など世界各地で銃規制を訴えるデモが行われた。リーダーの高校生は今や英雄視されている。

でもサントラムは気に入らないようだ。「彼らは問題解決を他人任せにしないで、例えばCPR(心肺蘇生法)の訓練を受けたりすべき」と批判。要は銃規制の法改正を訴えるより、銃乱射事件発生を前提とし、その対応を考えるべきだという。

当然、これには非難が殺到した。専門家が指摘したのは、CPRは心臓発作には役立っても、マシンガンで撃たれたときにはほとんど効果がないこと。風刺画に描かれているように喉に異物が詰まったときの救命法「Heimlich maneuver (ハイムリック法)」や苦い薬を飲みやすくする「Spoonful of sugar(ひとさじの砂糖)」と同じぐらい無意味だ。ある医師がツイートしたとおり、撃たれてCPRを受けるよりも最初から撃たれないほうが生存率は断然高い。

一般人から見ると言語道断の失言だが、一部の共和党員の間ではこんな非常識な考え方が「本物のリーダー」の証しとして好まれる。だから失言王が大統領になれる。サントラムも心配しなくていい。むしろ政治家としての蘇生につながるかも。

【ポイント】
RICK SANTORUM'S GUN MASSACRE FIRST AID CLASS

リック・サントラムの銃乱射の際の救急処置クラス

DON'T WHINE ABOUT LAX GUN LAWS, TAKE ACTION!
緩い銃規制について愚痴を言うのでなく、行動を起こせ!

"IF NONE OF THIS WORKS IT MEANS THE VICTIM WAS PROBABLY BLACK, GAY OR TRANSGENDER!"
「どれも効果がなかったら、被害者はおそらく黒人かゲイかトランスジェンダーだったのでしょう!」

<本誌2018年4月17日号掲載>


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は4日続落、米エヌビディア決算控え売買交錯

ワールド

ウクライナ西部で爆発、ロシアがミサイル・無人機攻撃

ビジネス

東京海上、発行済み株式の4.2%上限に自社株買い 

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利据え置く見通し 6カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story