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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
銃規制を阻む全米ライフル協会の「信仰心」(パックン)
(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE
<銃規制に反対する最強のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)を支えるのは、銃保有の権利を宗教のようにあがめるあつい信仰心>
Tent Revivalというのは、大きなテントで行われる「伝道集会」のこと。福音派キリスト教徒が音楽を楽しみ、説法を聞き、他の信者と交流することで、信仰に燃え、布教活動に励むように導かれていく集会だ。
全米ライフル協会(NRA)の集会はそれに酷似。銃保有主義者を鼓舞する音楽が流れ、銃文化を広める活動を熱く呼び掛ける。NRAの年次総会は3日間で8万人も動員する。
NRAと宗教の共通点はほかにもある。どちらもカリスマに富むリーダーがいて、聖典がある(NRAは銃保有を認める「憲法修正第2条」を聖書のように扱う)。強い組織があり、テレビ局を持ち、幹部が儲かる。それに、どちらも田舎で厚い支持層を誇っている。5歳から聖歌隊で歌い、8歳から銃を撃っている田舎育ちの僕が言うんだから間違いない!
どちらも信仰心が最重要。現実を問わず信じ続ける! NRAの有名な信条は「Guns donʼt kill people, people do(銃が人を殺すのではなく、人が人を殺す)」。銃以外でも人を殺せるから銃規制は無意味という主張だが、銃規制と銃による死者数や殺人率は反比例する。人を殺すのは「銃を持つ」人のようだ。
「国民が銃を持つことで民主主義が成立する」という信条も有名。「銃がないと独裁国家になる」という考え方だが、銃がない日本は立派な民主国家だし、昔から銃保有率の高いイラクやイエメンなどは独裁の歴史が長い。残念!
次は「教職員に銃を装備させれば学校での銃乱射を防げる」。犯人は死を恐れて学校を狙わないとトランプ大統領もツイートしたが、そもそも犯人は現場で自殺することが多い。それに2月に銃撃事件があったフロリダ州の高校には銃を持った警官がいたが、残念なことに事件を防げなかった。
どれも現実とそぐわない信条だが、不都合な現実を隠すのもNRAと宗教の共通点。聖書に基づく「創造論」を信じる福音派の圧力で一時期、カンザス州の学校では「進化論」が教えられなくなった。同じくNRAの圧力で、銃被害の調査に税金を使うことは禁じられている。こんなことができるのも両者が政治に莫大な影響力を持つ故。だから大半の国民が銃規制を願っているのに実現しない。もはや祈るしかない。
【ポイント】
YOU HAVE TO ADMIRE THE EVANGELICAL FERVOR, SINGULAR FOCUS, CRUSADES REACHING MILLIONS WITH THEIR GOSPEL MESSAGE...
あの福音派的な情熱、見事な集中力、ゴスペルのメッセージで何百万もの人々の心を動かす運動は称賛するしかない
I PREFER BILLY GRAHAM.
私はビリー・グラハムのほうがいいわ(グラハムは2月21日に亡くなった福音派の伝道師)
<本誌2018年3月20日号掲載>
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