コラム

銃規制を阻む全米ライフル協会の「信仰心」(パックン)

2018年03月15日(木)11時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<銃規制に反対する最強のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)を支えるのは、銃保有の権利を宗教のようにあがめるあつい信仰心>

Tent Revivalというのは、大きなテントで行われる「伝道集会」のこと。福音派キリスト教徒が音楽を楽しみ、説法を聞き、他の信者と交流することで、信仰に燃え、布教活動に励むように導かれていく集会だ。

全米ライフル協会(NRA)の集会はそれに酷似。銃保有主義者を鼓舞する音楽が流れ、銃文化を広める活動を熱く呼び掛ける。NRAの年次総会は3日間で8万人も動員する。

NRAと宗教の共通点はほかにもある。どちらもカリスマに富むリーダーがいて、聖典がある(NRAは銃保有を認める「憲法修正第2条」を聖書のように扱う)。強い組織があり、テレビ局を持ち、幹部が儲かる。それに、どちらも田舎で厚い支持層を誇っている。5歳から聖歌隊で歌い、8歳から銃を撃っている田舎育ちの僕が言うんだから間違いない!

どちらも信仰心が最重要。現実を問わず信じ続ける! NRAの有名な信条は「Guns donʼt kill people, people do(銃が人を殺すのではなく、人が人を殺す)」。銃以外でも人を殺せるから銃規制は無意味という主張だが、銃規制と銃による死者数や殺人率は反比例する。人を殺すのは「銃を持つ」人のようだ。

「国民が銃を持つことで民主主義が成立する」という信条も有名。「銃がないと独裁国家になる」という考え方だが、銃がない日本は立派な民主国家だし、昔から銃保有率の高いイラクやイエメンなどは独裁の歴史が長い。残念!

次は「教職員に銃を装備させれば学校での銃乱射を防げる」。犯人は死を恐れて学校を狙わないとトランプ大統領もツイートしたが、そもそも犯人は現場で自殺することが多い。それに2月に銃撃事件があったフロリダ州の高校には銃を持った警官がいたが、残念なことに事件を防げなかった。

どれも現実とそぐわない信条だが、不都合な現実を隠すのもNRAと宗教の共通点。聖書に基づく「創造論」を信じる福音派の圧力で一時期、カンザス州の学校では「進化論」が教えられなくなった。同じくNRAの圧力で、銃被害の調査に税金を使うことは禁じられている。こんなことができるのも両者が政治に莫大な影響力を持つ故。だから大半の国民が銃規制を願っているのに実現しない。もはや祈るしかない。

【ポイント】
YOU HAVE TO ADMIRE THE EVANGELICAL FERVOR, SINGULAR FOCUS, CRUSADES REACHING MILLIONS WITH THEIR GOSPEL MESSAGE...

あの福音派的な情熱、見事な集中力、ゴスペルのメッセージで何百万もの人々の心を動かす運動は称賛するしかない

I PREFER BILLY GRAHAM.

私はビリー・グラハムのほうがいいわ(グラハムは2月21日に亡くなった福音派の伝道師)

<本誌2018年3月20日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 10
    女教師の「密着レギンス」にNG判定...その姿にネット…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story