コラム

国外ではほぼ無名...石破新首相はアメリカからこう見える

2024年10月18日(金)12時50分
石破茂

総裁選に5回も挑み続けた石破の意志の強さは侮れない(10月9日) DAVID MAREUILーPOOLーREUTERS

<史上最年少や初の女性首相でもない石破新首相は、アメリカでは白紙の状態からスタート。しかし侮れないのは米大統領にはあり得ない政治キャリアと...>

日本の石破茂新首相が一般のアメリカ人の間で知名度を獲得するのは容易ではない。史上最年少や初の女性首相といった目立つ特徴が何もないからだ。

つまり、石破はアメリカ人(日本外交マニアは除く)の間で白紙に近い状態からスタートすることになる。それでも型破りな経歴と政治姿勢、個性を考えれば、短期間で存在感を一気に高める可能性はある。


まず、ユニークな経歴。所属していた政党を飛び出した後、何年もたってから出戻り、党の最高ポストに5度目の挑戦で当選する──アメリカの大統領にはあり得ない政治キャリアだ。このような波瀾万丈の出世物語には、誰もが敬意を払わざるを得ない。

第2に、石破が自民党の総裁選で勝利したのは、有力な2人の対立候補に比べて穏健だったからだろう。若い小泉進次郎元環境相の新自由主義や高市早苗前経済安全保障相の強硬なナショナリズムと一線を画すことで、石破は全国的な人気を集めた。

大接戦の自民党総裁選を制した石破は、防衛費の増額と韓国との関係強化に取り組んだ岸田前政権の路線を継承することになった。世界情勢が制御不能に陥りつつある今、このことは地政学的な面で日本の安定にとって大きな勝利と受け止められている。

第3に、新政権は岸田時代の延長と見なされるだろうが、石破本人の個性が波乱要因になる可能性もある。一度は自民党を離党したのはなぜか。党内有力者のかなりの部分から嫌われている理由は? 既存の日米安保体制を揺るがす「アジア版NATO」構想を本気で推し進め、在日米軍の削減を要求するのか。

私が話を聞いた複数のアメリカ人日本ウオッチャーは、石破政権が日本の主権を声高に主張し、米大統領選を争うトランプ前大統領とハリス副大統領のうち前者の政権と相性がいい政策を前面に押し出す事態もあり得ない話ではないと考えている。石破は総裁選中の沖縄の演説会で、20年前の米軍ヘリ墜落事故についてこう語った。

「沖縄の警察は現場に入れず、全ての機体の残骸は米軍が回収した。これが主権国家なのか」。石破は汚職やスキャンダルの撲滅に力を入れる一方、主権国家としての日本の誇りの回復を推進する可能性が高い。

石破がどんな外交政策を取るにせよ、重要なのは周辺諸国の反応だ。アメリカが対決姿勢を強める中国、ロシア、イランへの対応に追われている今、韓国が石破首相誕生に示した好意的反応は、緊迫化する東アジアにおける民主主義陣営の団結を示すシグナルとして評価されている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story