コラム

ロシアが拡大NATOを恐れない理由

2022年05月31日(火)17時23分

NW_POT_02 (1).jpg

西側の結束は逆効果になる可能性も(NATO本部)YVES HERMANーREUTERS

しかし、NATO拡大はプーチンがより多くの兵力をウクライナに動員する口実になり得るかもしれない。ロシア国民に対して、西側諸国がロシアを包囲するために徒党を組んでいると示すことができるからだ。

5月16日、ロシア主導の軍事同盟・集団安全保障条約機構(CSTO)の首脳会議がモスクワで開かれ、プーチンは近隣諸国の指導者と顔を合わせた。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの国家元首たちは、「歴史に残る虐殺者」「戦争犯罪人」のレッテルが定着したプーチンと同席することに困惑する様子は見せなかった。

ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、ロシア周辺でよく聞く陰謀論を展開した。

「ロシアとわが国との安全保障関係がなければ、ベラルーシでは既に『熱い戦争』になっていたのではないか」

ルカシェンコは西側の軍備増強と庶民を直撃する制裁を取り上げ、CSTOは連携と交流を強化し、西側のフェイクニュースと戦い、NATOや国連のように機能するための組織改革で「現在の国際問題」への影響力を強化しなければならないと力説した。プーチンも、米軍は国際法に反してロシア国境付近で生物兵器を開発していると主張した。

こうした物言いは、近隣諸国の指導者よりずっと幅広い層に受け入れられている。この種の陰謀論は現在、ロシアで特に受けがいい。ウクライナ人の私の義父でさえ、独立系メディアが完全に沈黙している今は陰謀論に飛び付き、受け入れている。

この戦争に対するロシア国内の支持を盤石にしている大人気の陰謀論は次の3つだ。

(1)アメリカはロシアの分割をもくろみ、シベリアと極東の資源を盗もうとしている。だからこそロシアは貴重な資源を守るために、ウクライナを死守しなくてはならない。

(2)NATOはウクライナを軍事拠点として利用している。それがロシアとウクライナの分断の中心的理由だ。

(3)西側が支援するアレクセイ・ナワリヌイのような国内の反体制派はCIAの工作員であり、西側と共謀してロシア国家を内部から崩壊させる長期目標の実現を図っている。

こうした陰謀論に基づけば、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチャで発覚した残虐な戦争犯罪も、ウクライナの(あるいはハリウッドの)俳優による「作品」にすぎない。戦争開始以来、こうした説はロシア寄りのTikTok(ティックトック)やテレグラムを通じて拡散され、かなり信者を増やしている。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

基調物価が2%へ上昇するよう、緩和的な金融環境維持

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減

ビジネス

安定した物価上昇が必要、それを上回る賃金上昇も必要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story